中小企業が「業績連動型賞与」の仕組みを設計する際、「賞与総額」を計算する「分配率」をどうするか?
この記事では、その検討にあたって、考慮すべき4つのポイントついて整理します。
- 人的コスト比率の上限
- 給与を含むか?賞与限定か?
- 固定か?変動か?
- 上限下限を設定するか?
…その前に、必要であれば…
「業績連動型賞与」の概要は、この記事で紹介しています。

また、「業績連動型賞与」の実装ステップについては、下記の記事で紹介しています。

【全体像】
業績連動型賞与の計算過程
「業績連動型賞与」は、簡単に言うと
「みんなで稼いで」
「みんなで分ける」という仕組みです。
要するに「山分け」。
「山」となる
「賞与総額=原資」の話です。
下記のイメージ図にあるように、計算過程のふたつ目の要素です。

たとえば…
- 「限界利益」が計算の基準
- 「分配率」は「5%」
…とすると、次のようになります。
| 項目 | 金額 | 備考 |
|---|---|---|
| 売上高 | 3億円 | |
| 変動費 | 2億円 | |
| 限界利益 | 1億円 | |
| 分配率 | 5% | 山分けの「山」の比率 |
| 賞与総額 | 500万円 |

【着眼点】
検討すべき4つのポイント
Point1
人的コストの上限に注意
「分配率」の設定が高くて過剰分配による利益圧迫が起きたら本末転倒です。
「払い過ぎ」にならないように「上限シミュレーション」が重要です。
そのための指標となるのが「人的コスト比率」です。
よく似た用語に「労働分配率(付加価値に占める人件費の割合)」がありますが、「役員報酬を除く、メンバーたちの人件費」で計算する必要があるため、少しアレンジして提案します。
(人的コスト比率)=(A:人的コスト合計)÷(B:限界利益)
- A:人的コスト
- 役員報酬等を除くメンバーの給与や賞与、通勤手当や社保の会社負担額、さらに福利厚生費など、役員以外に関連するコストの総額です。
- 必要に応じて「研修費」や「新聞図書費」などを含むこともあります。
- B:限界利益
- 売上高から変動原価(仕入れや外注費等)を差し引いた管理会計上の利益です。
この「人的コスト比率」の適正値はそれぞれの会社によって変わりますが、一般的に50%を超えないように注意します。
私は40%を上限目安に検討することにしています。
経験上、一部の例外を除いて「人的コスト」が50%を超えるとほとんどが「赤字決算」になるからです。
計算例を紹介するので参考にしてみてください。
| 年間見込み(千円) | 比率 | 備考 | |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 500,000 | ||
| 変動原価 | 200,000 | ||
| 【限界利益】 | 300,000 | 100% | 限界利益を100%として計算 |
| 給与・雑給 | 75,000 | ||
| 法定福利費 | 10,000 | ||
| 通勤交通費 | 1,000 | ||
| 福利厚生費 | 4,000 | ||
| 【人的コスト合計】 | 90,000 | 30% | 賞与以外の人的コストの合計 |
この計算例によると、賞与を除く人的コストの合計が限界利益の30%と見込まれます。
「人的コスト比率」の上限を40%と設定すると「残り10%」の余裕があります。
このようなケースでは「賞与の分配率の目安は10%」として、人的コスト比率の上限である40%を超えないように検討を重ねますが、その際に「年商2~3倍になったら?」「年商が半分になったら?」など、その企業の事情に応じて、「極端な両ブレ」もシミュレーションし「そんな極端な業績のときでも10%で大丈夫か?」という「耐性」を試算することがとても重要です。
その結果「分配率は5%」と決めれば、限界利益が3億円の場合の賞与総額は「1500万円」ということになります。

Point2
総額方式か?賞与限定か?
上述の「人的コスト比率」のチェックと併せて検討する必要があるのが、
「総額方式か?それとも賞与限定か?」の検討です。
「総額方式」というのは
「人的コストの総額」を意味します。
これも、サンプルで解説します。
| 総額方式 | 賞与のみ | |
|---|---|---|
| 限界利益 | 300,000 | 300,000 |
| 人的コスト(賞与以外) | 90,000 | 90,000 |
| 賞与を除く人的コスト比率 | 30% | 30% |
| 分配率 | 人的コストの分配率は 限界利益の35% | 賞与の分配率は 限界利益の10% |
| 賞与 | 300,000×(35%-30%) =15,000 | 300,000×10% =30,000 |
「総額方式」の場合は「人的コストは、限界利益の35%とする」というルールなので、賞与はすでに支給積みの30%を控除した「残りの5%」が賞与になります。
一方「賞与のみ」で計算する場合は、支給済みの給与等に関わらず賞与限定で計算するために「限界利益×10%」となります。
「総額方式」の場合は、給与(特に時間外手当)や福利厚生費等の人的コストが増加すれば「残りは減少する」ので、賞与総額は少なくなります。
一方「賞与のみ」であれば、給与等の実績の影響はありません。
ちなみに、私が経営していた税理士事務所では「総額方式」だったのですが、特徴的なエピソードを紹介しておきます。
ある日、「慰安旅行で香港マカオに行きたい!」とメンバーから私に相談がありました。
慰安旅行は「福利厚生費」であり「人的コスト」のひとつです。
当社は「総額方式」だったので、念のため「賞与が減るけど大丈夫なん?」と確認しました。
でも、彼ら彼女らの回答は「賞与が減ってもいいので、みんなと思い出を作りたい」ってことでした。
私は、「んじゃ、いってらっしゃい!」とOKを出しました。
Point3
固定方式か?変動方式か?
次に検討するのは
「固定方式か?変動方式か?」です。
- 業績に関わりなく「固定するか?」
- 業績に応じて「変動させるか?」
百聞は一見に如かず、下記「変動方式」のサンプルを参考にしてください。
| 限界利益 | 分配率 | 賞与総額の参考値 |
|---|---|---|
| 70,000以上 | 10% | 7,000 |
| 60,000以上 | 9% | 5,400 |
| 50,000以上 | 8% | 4,000 |
| 40,000以上 | 6% | 2,400 |
| 30,000以上 | 4% | 1,200 |
この「変動方式」の特徴は、税金のように「高くなれば高率になる」という計算です。
「頑張っても、そうでなくても一律10%」という「固定方式」に比べて…
- 「一定ラインを越えれば、分配率がワンランク上がるから、もう少し頑張ろう!」
- 「このラインを割ると、ワンランク下がるぞ!キープしよう!」
…など、ラインを境目でのインセンティブを期待する方法です。
Point4
上限下限を設定するか?
併せて、検討しなければならないのは
「上限下限」です。
会社経営に「想定外」は付きものです。
今期だけの臨時的な利益が上がったり、
反対に災害等で想定外の減収に見舞われたり
そんな「想定外」の上ブレ下ブレに備えます。
例えば、臨時案件で「今期、たまたま限界利益が倍増した!でも来期はない」というようなケース。
上限設定がなければ「想定外の賞与」になりますが、それでいいかどうか?の検討です。
逆も同様で「想定外の損害発生」で業績に大きなダメージを負った場合、それでも賞与を支給するか?ということも検討します。
この上限下限を設定するかどうかは、それぞれの会社によって事情や考え方があるので、どっちがイイとは言えませんが、設定する場合の表現は次のようになります。
- 賞与総額の一人当たり平均額は、前期の150%を上限とする。
- 限界利益が、前期比で50%を下回った場合は賞与を支給しない。
【まとめ】
慎重にシミュレーション!
さて、どうですか?
「業績連動型賞与」の「分配率」の決め方について検討すべき4つのポイントを紹介しました。
- Point1:人的コスト比率の上限を超えないように注意
- Point2:総額方式か?それとも賞与限定か?
- Point3:固定方式か?変動方式か?
- Point4:上限下限を設定するか?
いったん決めてリリースした「分配率」は、特別な事情が無い限りコロコロ変更することはできません。
設計段階において様々なケースをシミュレーションし、慎重に検討しましょう。
お役に立ちますように!
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