中小企業の内部留保:「キャッシュ1億円」をイメージしてみる

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この記事は、更新時の情報と筆者の考えに基づくものです。


中小企業経営者にとって「内部留保の正しい理解」は、とても重要ですが、本稿では、そのリアリティーを深めるために「キャッシュ1億円」をキーワードにして深掘りします。(「たった1億円!?」と思う人は、10億円に読み替えてくださいw)

本稿は「中小企業の貸借対照表|内部留保が分かる経営者になること!」の補足です。

このブログでは「10人~100人規模の中小企業経営者」の方々に向けて「経営脳の自主トレサポート」を目的に「もっといい会社」にするためのヒントを発信しています。初めてアクセスしていただいた方は、こちら(=「このブログについて」)をまずご覧ください。

内部留保の基本

内部留保の基本は「中小企業の貸借対照表|内部留保が分かる経営者になること!」で解説した通りですが、ポイントをおさらいしておきます。

内部留保は、会計学的にはメンドクサイ説明が必要ですが、このブログではシンプルに「会社をたたんで清算したら、キャッシュはいくら残るか?=会社の換金価値」と定義しています。別名「実質純資産」や「実質自己資本」ともいい、それは貸借対照表を見れば分かります。

内部留保

換金可能な実質的内部留保を計算する際の前提となる注意点は次のとおりです。

  1. 資産をすべてキャッシュに換えればいくらになるか?
  2. 借入金や未払金など、支払いが必要なものはいくらになるか?
  3. リースの解約金や従業員の退職金など、帳簿には載っていない簿外負債はないか?

換金できるものをすべて換金し、そこから必要なすべての支払いを差し引いたら手元にいくら残るか?が「会社の換金価値」です。貸借対照表に載っている「純資産(帳簿価格=名目自己資本)」は、換金できない資産や隠れた負債を考慮しないため、実際の換金価値とは異なります。

潤沢な内部留保の必要性

内部留保が潤沢であることは、財務基盤が「分厚い」ことを意味します。それによって「資金繰りの余裕」や「万が一の耐久性」が高まることは言うまでもありませんが、それ以外にも以下のような強みを持つことができます。

  • 銀行に神経を使わず、自己資金でアクションを起こせる。
  • リスキーなチャレンジが可能になる。
  • 回収に時間がかかるものでも投資できる。

キャッシュ1億円のイメージ

「キャッシュ1億円」が「大きいおカネ」なのか「大したことないおカネ」なのかは、企業規模や業種によって様々ですが、このブログで想定している「10人~100人規模の中小企業」にとっては、「まあまあ大きなおカネ」だと思います。

この「キャッシュ1億円」とは、どういう「おカネ」なのか、想像を膨らませます。

まず「キャッシュ1億円」の意味ですが、「札束」を指しているのではなく、平時は「銀行預金」や「安全資産」の形で保有しているものも含みます。

キャッシュ1億円を溜めるまでの時間

上述したように、どんな形であっても「いつでも用意できる1億円」をゼロから蓄積するためには「3つの方法」があります。それは「稼ぐ」か「もらう」か「勘弁してもらう」です。

  • 稼ぐ=利益を出して、納税した後に残る「税引後純利益」をコツコツ貯める。
  • もらう=自分で稼がなくても、誰かが「ポン!」と口座に振り込んでくれればOKです。
  • 勘弁してもらう=いま返済している借入金を免除してもらえれば、一瞬で内部留保は増加します。

お分かりですね・・・特別なケースを除いて、一般的には「稼ぐ」しか手はありません。

では、ゼロから「キャッシュ1億円」を溜めるには、どれだけの時間が必要でしょうか?

(計算の都合上、法人税等を40%とします)

  • 税引前当期純利益@100万円=税引後純利益@60万円=約166年
  • 税引前当期純利益@1000万円=税引後純利益@600万円=約16年
  • 税引前当期純利益@5000万円=税引後純利益@3000万円=約3年半

さて、どのパターンが「しっくり」しますか?

まずは、あなたにとっての「1億円」を時間でイメージしておきましょう。

キャッシュ1億円が底をつくまでの時間

数年前の新型コロナの影響は、今も続いています。当時、緊急融資で救われた会社も、その返済が開始され資金繰りで苦しんでいる会社が少なくありません。

コロナ禍まで「ピン」と来ていなかった経営者も「もう、あんな思いはイヤや」と「内部留保」への関心が高まっています。

確かに、もう二度とあんな災いは勘弁してほしいところですが、今後も何があるか分かりません。

今後、何らかの理由で「売り上げが止まったら」という想定をしてみましょう。

  • 毎月の固定費が、100万円なら「キャッシュ1億円」が底をつくまで100カ月あります。
  • 毎月の固定費が、500万円なら「キャッシュ1億円」が底をつくまで20カ月あります。
  • 毎月の固定費が、1000万円なら「キャッシュ1億円」が底をつくまで10カ月です。
  • 毎月の固定費が、2000万円なら「キャッシュ1億円」が底をつくまで5カ月です。

経営者としてのイメージを持っておく

上記「貯めるまでの時間」「底をつくまでの時間」を計算してみることで、あなたにとっての「キャッシュ1億円」のリアリティが深まると思います。

重要なのは「世間一般のイメージ」ではなく「経営者としてのイメージ」を持つことです。

セカンドライフの1億円

経営者も「生身の人間」なので、いつか「引退の時」がやってきます。

セカンドライフは、千差万別なので「みんなに共通のテンプレート」はありません。

ただ「たたき台」があれば、あなたのための「テンプレート」を作ることが可能です。

下記を参考に「その時」をイメージしてみましょう。

セカンドライフの必要資金

例えば、セカンドライフの生活費を月額25万円とすれば、年間300万円が必要です。仮に、60歳で経営者を引退して、90歳まで生きるとすれば30年間で9000万円の資金が必要です。100歳までなら40年なので1億2000万円です。

まず、この計算が「ベース」です。

引退後も生活費相当の月額25万円の収入があれば、貯蓄は不要ですね。でも、年金も含めて「収入ゼロ」になれば、この「老後資金」が必要です。

生活費が月額25万円では足りない人、多すぎる人、様々です。

この計算も「キャッシュ1億円」のイメージにリアリティを持たせるために有効です。

引退時にキャッシュ1億円を手にする方法

中小企業経営者が引退時に1億円を手にする方法として、次の3つが考えられます。

  1. 現役時代の役員報酬や賞与、配当の中からコツコツと貯めておく。
  2. 会社を解散・清算して退職金や資本の払い戻しとして手にする。
  3. 会社を事業承継または売却して退職金や株式の譲渡代金として手にする。

いずれにしても「原資」は、上述したようにすべて「稼ぎ=利益」です。また、これら「給与(役員報酬・賞与)」にしても「配当」「退職金」「資本の払い戻し」「株式の売却」にしても「課税問題」があるので「手取り額」でのプランニングが必要です。

どのパターンが「もっとも節税になるか?」も、会社・個人の事情によって異なります。この話を積極的に提案してくれる顧問税理士は少数派なので、「提案」を待つのではなく積極的に「相談」しましょう。もし、この相談に満足のいく対応がなければ「税理士変更」を検討しましょう。「あなたの人生」に関わる重要問題だからです。

(関連記事)節税で会社は弱くなる?キャッシュが減っては本末転倒

まとめ:毎年、決算時に確認すること

さて、どうですか?「キャッシュ1億円」のリアリティを深めるための視点と計算例を紹介しました。このサンプルを参考に、毎年一回、決算の時に確認することをおススメします。

この話、実は「税理士としての私の反省・懺悔」でもあります。私も若い頃は「老後」は遠い将来だったので、特に気にすることなく日々を過ごしており、クライアントとの話題にすることはほとんどありませんでした。しかし、今となって、高齢経営者の現実を見ると、もっと早く提案し「考えるきっかけ」を提供するべきだったと・・・。

そんな想いで整理しました。

関連記事も含め参考にしてみてください。

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