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おはようございます!
今日は2024年第37週の土曜日、順調ですか?
さて、今日は「人的資本経営」について整理しておきます。多くは大企業を想定した文脈で登場する「人的資本経営」ですが、その本質において「大も中もない話」であり、むしろ、少数精鋭チームである中小企業においてこそ大切な考え方だと思います。
本稿では、その「元祖」ともいうべき、ノーベル賞学者であるゲーリー・ベッカー先生を紹介しながら、中小企業向けにアレンジしてまとめます。【チームビルディング力】の自主トレの参考にしてみてください。
このブログでは「10人~100人規模の中小企業経営者」の方々に向けて「経営脳の自主トレサポート」を目的に「もっといい会社」にするためのヒントを発信しています。初めてアクセスしていただいた方は、こちら(=「このブログについて」)をまずご覧ください。
ゲーリー・ベッカー先生
まず、ゲーリー・ベッカー先生のご経歴について記載しておきます。いつものようにChatGPTにまとめてもらいましたw。
ゲーリー・ベッカー(Gary Becker, 1930年 – 2014年)は、アメリカの経済学者で、シカゴ学派に属し、経済学の応用範囲を広げたことで知られています。
彼は経済学の枠を超え、犯罪、教育、家族、差別などの社会的行動に経済理論を適用しました。
このアプローチにより、経済学における新しい視点を提供し、1992年にはノーベル経済学賞を受賞しました。
また、シカゴ大学で長年教授を務め、多くの学者や政策立案者に影響を与えました。
彼は、人々が教育やスキル習得に投資することを、企業が設備や技術に投資するのと同様に捉えました。
この「人的資本」理論は、教育や訓練が経済成長に与える影響を理解するための重要なフレームワークとして、多くの分野で活用されています。
「人的資本」を高めれば、もっと良くなる
人間は、消費する「コスト」ではなく、教育や福利厚生、経験などの投資次第で価値が変動する「資本」であるという考え方です。
似ている言葉に「資源」がありますが、資源は「使うもの・消費するもの」というイメージなので、「人的資本」と「人的資源」は、似て非なる、むしろ正反対の概念です。
ベッカー先生がいう「人的資本」とは、個人が持つスキル、知識、経験、健康状態、そして人間関係などの能力やリソースのすべてを指していて、決して「スキルだけ」を指すものではありません。
これらの能力やリソースは、個人の生産性や収入に影響し、経済的な価値を持つ、あるいは産むので「資本」というわけですね。
この「人的資本」が企業や個人の成長のカギであるというのがベッカー先生の主張です。
だから、人に投資することなく、「資源」として消費する経営や、さらには、人を犠牲にしたり、ガマンの上に成り立っている経営は、「資本を棄損する経営」と解釈することができます。
「人的資本」の価値を高めることで、個人やチームの生産性が向上し「もっといい会社」に成長することが期待できますが、ちなみに、ベッカー先生の視点はさらに先の「社会」にまで向いています。
メンバーひとり一人がもっと良くなれば、会社がもっとよくなり、結果として社会がもっとよくなるという考え方です。
人的資本の価値を高めることで、個人も会社も良くなり、その結果、社会はもっと良くなる。
このロジックを理想論ではなく現実のものにするためには「どうすればいいのか?」というヒントをたくさん残してくれた先生です。
人的資本経営とは?
「人的資本経営(Human Capital Management)」とは、私なりに解釈すると「人的資本価値を高めることで、個人も会社も、そして社会もよくする経営」です。
「誰かを犠牲にして、別の誰かがよくなる経営」とは正反対の考え方です。
この「人的資本経営」は、「人的資本価値」と「高めるための仕組み」のふたつに分けて考えると理解しやすく、実務に活かしやすくなります。
人的資本価値
まず、人的資本の価値ですが、ベッカー先生は、前述したように「人的資本とは、能力や知識、技能、健康状態、その他の個人の特性」と定義していますが、これを私は「個人のパフォーマンスを左右する8つの要素」にカテゴライズしてみました。フレームワークにすると、次のような「曼荼羅」で表すことができます。
時間 | ゴール | お金 |
基礎スキル | 個人のパフォーマンスを 左右する8つの要素 | 実務スキル |
メンタル | フィジカル | マインドセット |
*このフレームワークは、ビズオーシャン(https://www.bizocean.jp/doc/detail/547917/)で無料ダウンロードしていただけますので是非活用してみてください。
「人的資本価値」を「個人のパフォーマンス」と言い換えて、ハイパフォーマーとなるためのカテゴリーをフレームワークに表したものですが、8つの要素のどれが欠けても良好なパフォーマンスは持続することができないことが分かります。
すでにお気づきかもしれませんが、このブログで紹介している「経営脳は5層構造」も、この考え方がベースになっています。
高めるための仕組み
人的資本経営のもうひとつの要素である「高めるための仕組み」。
上記マンダラの8つの要素を最適化するために、本人の努力が必要なのは当然ですが、会社としてのフォローやサポートの仕組みも欠かせません。
つまり「メンバーのパフォーマンスを高めるための仕組み」です。
それぞれのカテゴリーに沿ってタイトルをリストすると次のような仕組みが考えられます。
- ゴールの共有:企業理念の浸透、経営目的や目標の共有
- 時間活用:ワークライフバランス、タイムマネジメント
- お金:評価と待遇、将来への経済的な安心感
- マインドセット:正しい考え方や価値観共有
- フィジカル:健康管理
- メンタル:メンタルケア
- 基礎スキル・実務スキル:定例研修
「人的資本の価値」を高めるために、これらのカテゴリーについて、どのように「投資」するか?です。
それぞれの会社の事情によって検討することになりますが、優先順位付けや取捨選択のための参考にしてみてください。
人的資本経営の仕組み
上記の「仕組み」について、実務的な補足をしておきます。
ゴールの共有
そもそも論として「なぜ人的資本を高めなければならないのか?」「何のためにパフォーマンスを高めるのか?」を鮮明にして共有しておかなければなりませんが、そのための実務が「企業理念」に他なりません。
会社の存在意義や、目的など目指すところを言語化した「企業理念」への共感がパフォーマンスの前提となります。
「人的資本」と言っても、これは「目的」ではなく「手段」です。
人は「目指したいゴール」が無ければ、頑張ることができません。
(関連記事)【理念創造力】理念で人を惹きつけるチカラ
タイムマネジメント「時は金なり」
「時は金なり」という言葉があるように、タイムマネジメントは、人のパフォーマンスに大きく影響します。
「自分自身のパフォーマンスを最大化するために、時間をどのように有効活用するか?」ですが、私の提案は「経営者自身のタイムマネジメントスキル」を高めることです。
リーダーのタイムマネジメントは、必ずチームのそれに強く影響します。
リーダーが時間にルーズであると、チームもルーズになります。
リーダーが時間に厳しいと、チームにはいつも程よい緊張感があります。
まずは、経営者自身のタイムマネジメントスキルを向上させましょう。
(参考記事)最高の人生のための「経営者のタイムマネジメント」
経済的な安心感や満足感「お金」
あえて書くまでもありませんが、「お金」はメンバーのパフォーマンスを大きく左右します。
「人的資本」の前提となる経済的な安心感や満足感を支える仕組みの中心は「給与賞与制度」に他なりません。
現在の仕事に対する報酬としての満足感は当然として「この会社で人生を過ごそう!」と思ってもらうためには「将来ヘの安心感」も同時に必要です。
具体的には「キャリアパス」を仕組みとして明確にすることです。
30歳になったら、40歳になったら、50歳になったら・・・それぞれのメンバー個人が安心して家族計画や人生設計ができるように「可視化」することです。
そのために経営者が実務的に取り組みべきテーマが「長期経営計画」です。
短期や中期の延長線上に「どうなるかわからない」ということであれば「優秀な人材ほど流出する」ということを忘れてはなりません。
(関連記事)中小企業の経営計画は「経営者の人生計画」という視点
マインドセット「正しい考え方」
人のパフォーマンスは、その人の「考え方」で決定付けられると言っても過言ではないくらい、マインドセットは重要テーマです。
このブログでは、経営者のマインドセットとして8つをピックアップして紹介していますが、これらは、一般のメンバーにもあてはまります。
これら「価値観」にも通ずる「正しい考え方」は「仕組み」というより「カルチャー」が影響します。
好ましいカルチャー作りの参考にしてみてください。
- 「可能」を前提に考動しているか?
- 「多様性」を尊重しているだろうか?
- 「本質志向」を持っているだろうか?
- 「正しい成長志向」を持っているか?
- 「素直な心」を忘れていないか?
- 「使命感」はホンネだろうか?
- 「倫理観」は言行一致しているか?
- 「向学心」学び続けているだろうか?
(関連記事)チームのパフォーマンスを高めるための成長カルチャー創り
フィジカル「健康経営」
メンバーの健康管理をサポートすることは、大企業と違って予算や時間に制限がある中小企業においては手薄になりがちなテーマですが、むしろ人員に余裕が少ない分、メンバーの健康管理は「リスクマネジメント」のひとつでもあり、人的資本経営に不可欠な要素です。
最近は、様々な企業向けサービスも増えてきたの、例えば、次のようなフォローを検討してみましょう。
- 定期診断の実施
- 健康的な食生活の推進(「福利厚生・ランチ」などで検索)
- フレックスタイム制度や時差通勤の導入
- 健康に関する勉強会の開催
- ジム等を利用するための補助制度の導入
これら以外にも「職場環境」として、そもそも、換気や清掃が十分か?などは言うまでもありませんね。
心の健康「メンタルケア」
メンバーがメンタルに問題を抱えている場合は、パフォーマンスが上がるどころか「仕事どころじゃない!」ってことになります。定期的にストレスチェックの実施(「従業員・ストレスチェック」などで検索)するなどして、メンタルケアに配慮する必要があります。
(関連記事)人材が育たない理由は「メンタル」が原因かもしれない
スキル研修「基礎+実務」
健康な心身や正しいマインドセットという前提があって初めて「スキル」を活かすことができます。
基礎スキルに加えて、実務的な技能や技術の習得が必要ですが、これは、定例研修の仕組み化を検討してみてください。
(詳説記事)中小企業の人材育成|単発研修に効果なし=定例研修を仕組化
すべてを包括する「人事評価制度」
以上「人的資本」の8つの要素において取り組むべき「仕組み」をリストアップしましたが、いちばん大事なことが漏れています。
それは、「人事評価制度」です。
これは「単品」で成り立つものではなく、すべての要素に関連する包括的な仕組みです。
- ゴールや目的・・・人事評価とは、ゴールに対する貢献を測る仕組みです
- 体の健康/心の健康・・・人事評価のプロセスである「個人面談/1on1」は心身ケアの絶好の機会となります。
- マインドセット・・・上記同様「個人面談/1on1」において、経営者はモチベーターとしての重要な役割があります。
- 基礎スキル/実務スキル・・・まさに「評価項目」です。
- 時間(タイムマネジメント)・・・PDCAの「A」におけるサポートに必ず出てくるテーマですね。
- お金(経済的な安心感や安全性、満足感)・・・「人事評価」と「給与賞与」は表裏一体。不可分の仕組みです。
身も蓋もない話になりますが、「人的資本経営を包括する仕組み」は、行きつくところ「正しい人事評価制度の仕組み」になります。
(詳説記事)人事評価:最高のチームを作るための人事評価の仕組み「3つの重要視点」
まとめ
さて、どうでしょう?
今週は、ゲーリー・ベッカー先生の「人的資本理論」の考え方をベースに「中小企業の人的資本経営」について実務的に整理してみました。
「ヒトのパフォーマンスを左右する要素を最適化する仕組みでもっといい会社にする」という取り組みです。
メンバーを活かし、チームのパフォーマンスを高め、もっといい会社に進化成長する、という一見、当たり前でサラッと流してしまいそうな理屈ですが、じゃあ「できてますか?」「やってますか?」と言われると、仕組み化している中小企業はまだまだ少数派です。
価値観の多様化、人口減少などによって「経営者が求める人材」の採用難易度が益々上がっていく時代です。「人的資本経営」は、一朝一夕に実現できるものではない代物でもあるため、手遅れにならないよう、できるところから取り組むことを強くオススメします。
関連記事も含め参考にしてみてください。
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