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この記事は、更新時の情報と筆者の考えに基づくものです。
組織がそれなりに大きくなってくると複数の部門に分かれてきて、それぞれの成績が気になりだします。その時に導入を検討するのが部門別会計です。
この記事では、10人~100人規模の中小企業が部門別会計を始めるにあたって最初に明確にすべき「目的」の考え方、設計の4つのプロセス、導入にあたっての注意点など「部門別会計の設計から導入までの実務ステップと重要視点」について詳しく解説します。
この記事は「中小企業向け|マネジメント会計(管理会計)の設計と運用の概要」の補足です。
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部門別会計とは?
「部門別会計」は「事業別」「地域別」「店別」などが一般的によく知られています。
- 「会社の数字」を「部門別の数字」に分解し
- 「どの部門が稼いでいるのか?」
- 「どの部門に問題があるのか?」
などの経営情報を得るための会計の手法です。
中小企業の多くは市販の会計ソフトで「部門設定」を行って、部門別にデータを入力処理することで運用します。
そのアウトプットイメージは下記のようになります。
全社合計 | A部門 | B部門 | |
---|---|---|---|
売上高 | 25,000 | 15,000 | 10,000 |
変動原価 | 15,000 | 9,000 | 6,000 |
限界利益 | 10,000 | 6,000 | 4,000 |
(限界利益率) | 40% | 40% | 40% |
人的コスト | 4,000 | 3,000 | 1,000 |
(対:限界利益率) | 40% | 50% | 25% |
その他コスト | 3,000 | 2,000 | 1,000 |
部門利益 | 3,000 | 1,000 | 2,000 |
説明の都合上、少々極端な数字ですが、「全社合計」を見ると、人的コストは、限界利益の40%で収まっており「ギリギリ合格」という数字を表していますが、部門に分けてみると、A部門の人的コストは50%にも達しています。その結果、売上高の少ないB部門の方が利益は大きいということがわかります。
部門別会計の目的を明確にしよう!
なぜ、部門別会計をやりたいのですか?
私が「部門別会計」の依頼を受けたときにする最初の質問です。部門別会計は「目的」によって、その設計内容が大きく変わるからです。
一般的に、目的は「部門別の詳しい業績把握」か「人事評価への活用」が多いのですが、このいずれかによっても設計内容が変わるので必ず最初に質問することにしています。
たとえば、部門別の詳しい業績把握が目的ならば、「実数値」が優先されます。なるべくリアルな数字をその発生部門に当てはめて運用します。
一方で、人事評価への活用が目的ならば「実数値」より「できるだけ公平、平等な条件で計算する」ことが優先されます。
多店舗展開しているチェーン店で設計する場合を想定してみましょう。
前者(業績把握目的)の場合は「減価償却費」や「地代家賃」は、その発生店舗に「実額」を計上することなります。一方で、後者(人事評価目的)の場合は、その店長の裁量が及ばないコストなので、発生店舗には負担させず、それに代わる「本部負担金」等の賦課で店舗間の公平性を保つ、という具合です。
この話をすると、ほとんどの経営者は「両方大切」と言います。リアルな数字も必要だし、店長評価のための公平な数字も必要だと・・・。目的がひとつであれば、市販の会計ソフトで十分事足りますが、「リアルな数字」も「公平な数字」も、両方が必要であれば、市販の会計ソフトでは実現できません。そのような場合は、エクセル等の表計算ソフトを使って独自にフォーマットを設計し、会計ソフトからエクスポートしたデータをそのフォーマットに変換するという方法で進めます。
部門別会計の設計、4つのステップ
目的が決まれば、実際の設計を始めます。その進め方は、おおむね次のとおりです。
STEP1:タテの設計「利益の計算プロセス」
最初に「タテ」を設計します。「タテ」とは、部門利益の計算プロセスです。
たとえば「人件費の小計」を部門別に比較検討したい、というようなニーズがあるとき、一般の会計ソフトでは「販管費(販売費及び一般管理費)」として他のコストと一括集計されているので、それが見えません。このような場合は、別途エクセル等でフォーマットを用意する必要があります。
また、それに増して重要なのは「どこまで公表するか?」についても慎重な検討が必要です。会議資料として公表する場合、一般の会計ソフトであれば「役員報酬」や「税引後純利益」まで表示されてしまいますが「そりゃ都合が悪い」という場合は「公表・非公表」のラインを決めなければなりません。
(参考記事)中小企業の部門別会計|管理会計によるPLフォーマットサンプル
STEP2:ヨコの設計「部門設定」
次は「ヨコ」です。つまり「部門」。
一般的には、組織図に沿って設定していきますが、その「階層」や「階層ごとの共通部門」をどうするか?の検討が必要です。また、いわゆる共通部門として「本社部門」を設置しますが、それとは別に「経営部門」を設けるかどうか?もこの段階で検討します。
STEP3:コスト負担ルールの検討
「タテ」「ヨコ」の「部門マトリックス」が可視化できれば、次に「どこに入れるか?」の検討です。具体的には、コスト負担のルールです。
コストのひとつ一つについて「消費部門・発生部門」が負担するコストなのか、それとも「本社負担」とし、各部門には負担させないか、について検討していきます。
例えば、前述した「業績把握目的」なのか「人事評価目的」なのか、で大きく変わるステップなので慎重に検討しなければなりません。
例えば「減価償却費」で例示します。
A部門、B部門で、まったく同じパソコンを使っているケースを想定します。A部門は前期に取得したもの、B部門は、今期新たに取得したものとすれば「定率法」で償却計算するので、同じパソコンでもその金額が異なります。「それが事実だから、それぞれ実額負担でよい」という考え方と「同じパソコンなのにコストが異なるのはおかしい」という考え方があります。さて、どっちにする?という検討です。
STEP4:本社経費(共通経費)の負担ルール
次に検討するのは「本社経費(共通経費)」の負担ルールです。一般的に本社部門は「コストセンター」なので収益はなく「赤字部門」となります。この赤字を、収益部門で「割り勘」するかどうか?の検討です。「割り勘」する、とすれば、そのルールをどうするか?です。
一般的には「毎月定額を負担」「毎月の部門利益に応じて負担」の選択になりますが、この「定額」についても「全部門同額」なのか「人数割」なのか、それとも「別の方法」なのか?。
この検討には「本部経費(共通経費)」が、年間、どれくらいの金額になるのか?という予算や予測にもとづいてシミュレーションをしながら検討を進めます。
以上が「おおまかな」設計プロセスでですが、実務的には、さらに細かなルールが必要になります。例示しておくと、下記になりますが、これらの詳細については、また改めて別の記事で紹介します。
- 部門間取引(内部取引)の価格ルール
- 部門間の兼任者のコスト負担ルール
- 部門間の人的応援の際の人件費振替ルール
- 赤字部門の「補助金」ルール
- 給与データを実額公表してよいか?それに代わる方法は?
(参考記事)中小企業の部門別会計|共通経費を配賦する4つの方法
導入前に必ず「現場の声」を聴くこと
この「部門別会計」を導入(社内リリース)する場合に、意外と盲点になっている「現場の声」についても紹介しておきます。
多くの企業において「部門別会計」は、「経営陣」や「経営企画室」などによって設計、導入されますが、リリースしても「笛吹けど踊らず」ということがあります。現場が「しらけてる」のです。
その原因は「現場の声」が十分反映されていないからです。
設計の段階で、正しく「目的」を伝えたうえで、現場の希望、要望をヒアリングし、また、そのプロセスで不安を解消していくことが「部門別会計」を上手に運用する秘訣です。
私もサポートに当たっては最も神経を使うところです。経営陣の希望や要望を踏まえた上で、各部門長へのインタビューし「机上の空論」や「理論値」にならないように配慮します。
また、このプロセスで「想定外」の経営課題が発見されたり、上層部が知らない複雑な取引が存在していたり、あるいは、もみ消されている事実が発見されたりなど「部門別会計」とは別のテーマが見つかることもあって興味深く取り組んでいます。
まとめ
さて、どうですか?中小企業の部門別会計におけるステップ別の重要視点を整理しました。
部門別会計は、経営課題の発見、収益性の向上、人材育成など、そのメリットは多岐にわたりますが、そのメリットを最大限に気引き出すためには、最初の「設計」がとても重要です。
関連記事も含め参考にしてみてください。
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