中小企業の人材育成|人は会議で育てる

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この記事は、更新時の情報と筆者の考えに基づくものです。


私は、税理士として30年以上にわたって、また、現役を引退した今でもマネジメントコーチとして多くの経営者と仕事をしていますが、会議への参加を依頼されることが少なくありません。

そんな中には、「早く終わらないかな」「時間がもったいない」「この会議は無駄だ」と参加メンバーの表情から見て取れることさえあり、「こりゃダメだ・・・」と感じる会議があります。

そんな時、私は会議終了後にその経営者に「会議のやり方を変えませんか?」と声をかけるようにしています。私は「会議は絶好の育成機会」だと思っているので「人材育成の場に変えませんか?」と提案するのです。

「無駄な会議」をやめて「有意義な会議」に変えようと思っている経営者の方はぜひ参考にしてください。

この記事は「中小企業向け人材育成|人が成長する仕組み作りの概要」の補足です。

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無駄な会議・面白くない会議・怖い会議

会議は育成のための絶好の機会なのですが、このせっかくの機会が「無駄な会議」となっている会社が散見されます。

  • 情報伝達・情報共有のためだけの会議
  • 議題に関係のないメンバーまで召集されている会議
  • 特定の人(特に上長)の独演会となっている会議
  • 特定のメンバーが吊し上げられるような怖い会議
  • なぜかケンカ腰で参加しているメンバーがいる会議

なぜ、このような「残念な会議」になってしまうのか。多くの場合、「招集者の目的意識」や「招集者の個人的嗜好や思い」、あるいは「招集者(議長)の力量」が原因です。

  • 集まることに意義がある、集まらないと不安という個人的嗜好
  • 他部門の情報も知るべきという思いの範囲が広すぎる
  • 伝えることが目的で「議論の余地」がない
  • 昭和的な発想でプレッシャーをかければ頑張るだろうという考え
  • ケンカ腰のメンバーをコントロールできない議長
  • そもそもファシリテートスキル(参加者の意見を引き出し、議論を活発化させ、合意形成を図るスキル。また、その一連のフローをスムースに進行するスキル。)が欠如している

これらの問題を個別に解決するのではなく、「会議の目的は人材育成」と視点を変えることで、これらの諸問題の多くは一括解決できます。

会議は、考動習慣を改善するための絶好の機会

一般的に「会議」は、大きく二つに分けられます。

  1. 情報伝達・情報共有のための会議
  2. 課題発見・課題解決のための会議

多くの会社では、「情報伝達・情報共有のための会議」は、チャットやメーリングリストなどデジタルに置き換えることができるので、このような会議は「廃止」でいいのではないでしょうか?

一方で「課題発見・課題解決のための会議」は、人材育成の絶好の機会です。

「課題」とは、「あるべき姿・ゴール」と「現状」のギャップです。いきなり「どうすればいい?」とディスカッションするのではなく、その前提である「どうあるべきだろう?」というゴールイメージの解像度を高めるディスカッション、さらにそれを共有するためのコミュニケーションを行うことで大きな効果があります。

たったこれだけのことでも、定例会議によって反復練習すれば「課題発見のフレームワーク(課題発見のためのゴールファースト思考)」を各メンバーにインストールすることができるのです。

また、引き続き、課題解決のスケジューリングについても「GSC:ゴール+シナリオ+キャスティング」という、計画実現のフレームワーク(計画実現のためのバックキャスト思考)に沿ってディスカッションすることを継続することで「計画立案」の考動習慣が改善します。

このように、ちょっとした工夫をするだけで、メンバーの考動習慣を改善することが可能であり、会議は有意義なものに変わります。

(参考記事)人材育成の重要視点=ヒトも「OSとアプリ」で動いてる

有意義な会議を行う基本事項

育成目的の会議に関わらず、有意義な会議を行うための基本事項を整理しておきます。

  1. 目的の共有
    会議は何のために開催するのか?目的を言語化し共有しておくことは当然です。育成目的の会議であれば、メンバーの考動習慣を改善するトレーニングの機会でもあることを参加者全員で共有しておくことでトレーニング効果が上がります。
  2. 議題の事前通知
    議題は、事前に通知し、参加者全員に参加準備を促しておきます。
  3. 時間管理
    会議の時間は厳守です。開始予定時間きっかりに開始することは言うまでもありませんが、終了予定時間になれば、仮に議論の途中であってもそこで切り上げ、必要であれば追加日程の調整を行います。特別な事情がない限り延長はしません。また、事前に長引くことが予想される場合は「今回は、延長の可能性がある旨」を目的や議題の通知の際に同時に伝えておきます。
  4. 議事録の共有
    議事録は必ず作成し、会議後に共有します。なお、議事録は参加者のうちの誰かを会議終了後に指名します。「今日の議事録は、Aさんが発信してください」という具合です。「議事録発信者になるかも」という緊張感が、各メンバーの記録スキル、文書作成スキルをトレーニングする機会になります。

(関連記事)中小企業の管理会計|有意義な経営会議の進め方、6つの視点

ファシリテーションスキルのチェックリスト

上記の「有意義な会議」を行うためには「ファシリテーションスキル」が必要です。中小企業においては、経営者であっても、この「ファシリテーションスキル」を学ぶ機会が少なく、多くの場合は「自己流」で会議を行っていることがほとんどです。ファシリテーションがヘタクソなのではなく、単に「知らないことが原因」であることも少なくありません。ここで、基本的なことをリストアップしておくので、セルフチェックしてみてください。

会議の準備

  • 会議の目的と目標を明確にしている。
  • アジェンダ(議題)を事前に作成し、参加者に共有している。
  • 必要な資料やデータを用意している。
  • 適切な参加者を招集している。

会議の進行

  • 会議の時間を守り、予定通りに進行している。
  • 各議題の時間配分を適切に管理している。
  • 参加者全員が発言できるように促している。
  • 議論が脱線しないように軌道修正している。

コミュニケーション

  • 参加者の意見を尊重し、積極的に聞いている。
  • 明確で簡潔な言葉で説明している。
  • 視覚的な資料やホワイトボードを活用している。
  • 質問やフィードバックに対してオープンである。

問題解決と意思決定

  • 議論を整理し、重要なポイントをまとめている。
  • 合意形成のプロセスを円滑に進めている。
  • 意見の対立を建設的に解消している。

参加者のエンゲージメント

  • 参加する価値(参加者満足度)を意識している。
  • 参加者のモチベーションを高める工夫をしている。
  • 多様な意見を引き出す工夫をしている。
  • 参加者の非言語コミュニケーションを観察し、対応している。
  • 意見や質問に対してポジティブなフィードバックをしている。(「いい質問だね」「新たな視点だね」など)
  • 発言に感謝している。(「貴重な意見をありがとう」など)

会議後のフォローアップ

  • 会議の議事録を作成し、参加者に共有している。
  • 会議で決定した内容の進捗を確認している。
  • 会議の評価とフィードバックを求めている。
  • 次回の会議に向けて改善点を検討している。

走りながらコーチングスキルを身につける

会議を育成の機会とするためには、上記のファシリテーションスキルに加えて、コーチングスキルが必要ですが、これは「身に付いてから」ではなく「育成目的の会議を行いながら身につける」という意識で取り組みます。

まずは「全員の基礎スキルをワンランクアップする」というところから始めましょう。

そのためには「経営者自身が基礎スキルのコーチレベルであること」が必要なのですが、多くの経営者が自信を持っているわけではありません。ここで重要なのは「自分自身もエラそうなことは言えないので・・・」と引っ込み思案になるのではなく「自分自身の基礎スキルを高めるための絶好の機会だ」と捉えて、チャレンジすることがとても大切です。

会議の中で、次のように取り組むことで、メンバーとともに、ファシリテートする経営者自身の基礎スキルも飛躍的に高めることが可能です。

  • 課題発見力:どうあるべきだろう?それに対して、現状はどうだろう?について、参加者の意見を求めます。
  • 計画実現力:「正しい計画作り」のフレームワークである「GSC:ゴール・シナリオ・キャスティング」を具体的に可視化する機会を多くします。
  • コミュニケーション力:話す姿勢、聞く姿勢など、基本中の基本のトレーニングです。「仕事仲間同士」なので、言葉の省略が多くなることがありますが、あえて「正しく喋る」ことをルール化します。
  • 管理力:いわゆるリスクマネジメントですが「万が一の損害やダメージ」を具体的に言語化し、共有する機会を多くします。
  • 仕組み化力:特定の人に任せてしまうのではなく、機会があるごとに「仕組み化・標準化・自動化」ができないか?をディスカッションします。
  • 深広思考力(クリティカルシンキング):ディスカッションが「上滑り」しているようなとき、常に「本質はなんだろう?」と考える機会を与えます。
  • 論理的思考力(ロジカルシンキング):「感覚」が大切なので否定はしませんが、本来ロジカルに言語化すべきところを省略してしまっている場合は、ファシリテーターとして「ロジカルに発言するように」と指摘するようにします。
  • リーダーシップ力:会議においては「当事者意識」です。受け身ではなく、ディスカッションの当事者として意識を持って参加しているか?をサポートします。

(関連記事)中小企業の人事評価|最大メリットは経営者の成長

会議を人材育成の場にするためのQ&A

経営者自身が「会議で育てる」という強い想いを持つことです。その上で、会議の目的にはトレーニングも含んでいるということを全員で共有することから始めましょう。

情報伝達・情報共有のための会議は、メールやメーリングリスト、社内SNSなどのデジタルツールで十分に代替可能です。これにより、会議時間を削減し、より重要な課題発見・課題解決のための会議に時間を割くことができます。

無駄な会議を防ぐためには、会議の目的を再確認し、議題を具体的に設定することが重要です。また、関係のないメンバーを招集しないようにし、全員が積極的に関与できるように工夫します。定期的に会議の進行方法を見直し、改善を図ることも大切です。

まとめ

さて、どうですか?「会議で育てる」という視点と実務を整理しました。

関連記事も含め参考にしてみてください。

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以上、お役に立ちますように!