中小企業の管理会計|情報価値を高める勘定科目の”新”視点

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損益計算書で表されている数字は「経営情報」です。そこの計上されている各コストは「勘定科目」によってネーミングされていますが「経営者感覚」として違和感のあるものはありませんか?

この記事では、中小企業の管理会計において重要な「情報価値」を高めるためのコスト科目について、その重要な新しい視点を紹介します。

この記事は「中小企業向け|マネジメント会計(管理会計)の設計と運用の概要」の補足です。

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まずはMA損益計算書のおさらい

マネジメント会計(管理会計)の設計段階における「勘定科目の見直し」は、とても重要なプロセスですが、その理由は「MA損益計算書」の「情報価値」を最大限に高めるためです。

(参考記事)会計は「事務処理」ではなく「情報処理」であるという視点

勘定科目の新視点を紹介する前に、まずは進化型PLである「MA損益計算書」のイメージをおさらいしておきましょう。

従来の「財務会計の損益計算書」では「販売費及び一般管理費」という区分にリストされている各コスト科目ですが、「MA損益計算書」では「事業コスト」を6つの区分でリストします。

【事業コストの6区分】

  1. 人的コスト
  2. 戦略コスト
  3. 設備コスト
  4. 運用コスト
  5. 金融コスト
  6. 償却コスト

(参考記事)管理会計|中小企業経営者のための【進化型】MA損益計算書

勘定科目に「決まり事」はない!

私が過ごした30年以上の税理士時代に、お客様から「ナニ費にすればいいの?」という質問を受けたことは数え切れませんが、私の回答は決まって「ご自由に!」でした(笑)。

「ナニ費にすればいいの?」という質問は「何か決まり事があるのでしょ?」という誤解から生じるものです。

例えば、電話代は「通信費」にしなければならない・・・なんて決まっていません。「ドコモ費」とか、ダイレクトに「電話代」とか「何でもいい」のです。

「ご自由に!」と言うと、さすが関西?「自由なんだったら、電話代はかわいく『フォンフォン費』にしよう!」とか、冗談をいう人がいたことも懐かしい思い出ですが、税務署の目にも止まりやすいので「やりすぎ」とアドバイスはしていましたが(笑)。

冗談はさておき、勘定科目は自由だからこそ、経営者にとって「最も分かりやすいネーミング」にすればいいのです。マネジメント会計の主役は、経理部門でなく、顧問税理士でもありません。経営者のためにマネジメント会計はあるからです。

会計の情報価値を左右する勘定科目

勘定科目は、会計の情報価値を左右しますが、ここで少しだけ、専門的な話を紹介しておきます。

会計の世界には「企業会計原則」というのがあって、その中の「明瞭性の原則」では「詳細性と概観性の両立」を求めています。要は「わかりやすくするために、適度に細かく、でも、細かすぎず」という考え方です。関西風に言うと「勘定科目は、ええ塩梅にしときや」という意味です。

例えば、自由だからと言って、イチイチ勘定科目を分類せず「費用」と一括りにしてしまうと「詳細性」が足りないし、反対に「店別に勘定科目を分けよう!」と「ローソン費」「セブンイレブン費」「ファミマ費」「その他のコンビニ費」なんて、分けだしたらキリがなく「概観性」がそこなわれ、いずれであっても「明瞭でなくなる」という考え方です。

この「ええ塩梅」で勘定科目体系を作るところに「センス」が求められ、また、長年税理士をやってた私は、その経験からセンスのよい税理士か、そうでないかがよくわかります。それは「経理担当者」でも同様です。

大雑把で無頓着な人、あるいは経験が浅い人は「勘定科目」を会計ソフトの「初期設定」のまま変更せずに使っていますが、反対に「この会社の経理担当の人、センスいいなあ~」と感じる人は「勘定科目にひとひねり」を加えているものです。

例えば、通販業における「広告宣伝費」は重要な科目なので、手法別に「リスティングコスト」「Googleコスト」「アフィリエイトコスト」「SNSコスト」などに細分し、分かり易くネーミングする、って具合です。

この「ひと工夫」があるかないか、これが「勘定科目が会計の情報価値を左右する」という意味なのです。

(参考記事)経営脳の5つのレイヤー:第5階層:競争力の源泉「センス」

情報価値を高めるコスト科目の例

感覚やセンスが違う人が作る会計データを使わざるを得ないのは「経営者にとっての悲劇」なのですが、それは自業自得です。

このブログのあちこちで書いてますが「マネジメント会計(管理会計)」の主役は経営者です。したがって、勘定科目を決めるのは経営者の仕事です。

自社の経営をイチバンよく分かっている人が、自社情報の重要性をイチバンよく分かっているはずです。経営に必要な情報は何か?その情報を正しく知るためにコスト科目はどんなネーミングがいいか?です。

いくつか事例を紹介しますが、視点は、あくまでも「情報価値」です。年間通じて少額なものまで分類する必要はないので「額面通り」に受け取らないように注意してください。

旅費交通費

会社によって事情は違いますが、中小企業の場合「旅費交通費」には、おおむね次のようなコストが含まれています。

  • 電車バスなど公共交通機関の旅費
  • 国内外の出張宿泊費
  • 旅費規定による出張日当
  • 高速代
  • 通勤手当

この中で多くの経営者が「違和感」を感じるのが「通勤手当」です。

「旅費交通費」は、MA損益計算書では「運用コスト」に区分されますが、「通勤手当」は「運用コスト」ではなくて「人的コスト(人件費)」じゃないの?という「違和感」です。

この違和感を解決するために「通勤手当」は「旅費交通費」には含めず「通勤交通費」を新設して「人的コスト」に区分計上することになります。

また、出張が多い会社であれば、「旅費交通費」以外に「国内出張旅費」「海外出張旅費」を新設することもおススメです。

通信費

御社の「通信費」には、何でもかんでも放り込んでいませんか?大半の中小企業では、新設して分類できそうな下記の内容が「ごっちゃ煮」です。

  • インターネット関連費(接続料以外にもネットに関連するコスト用の科目)
  • 電話通信費(固定電話・携帯電話など)
  • 文書等通信費(切手・ゆうパックなど書類のデリバリーコスト)
  • サーバー運用費(ソフトウエアの更新なども含みサーバーにかかるコスト用の科目)

ルーズなケースでは「宅配便」は「荷造り運賃」、「ゆうぱっく」は「通信費」というように「モノのデリバリー」という意味では同じものも、なぜか別々に計上処理されています。

荷造運賃

「荷造運賃」も違和感の多いコスト科目です。

いわゆる「デリバリーコスト」ですが、会社が送るものは様々です。

書類を送るなら、上記の「通信費」として「運営コスト」の区分です。また、売れた商品を送るなら「荷造運賃」として「変動原価」の区分に計上します。さらに「サンプル品」であれば「広告宣伝費」として「戦略コスト」の可能性があります。

「モノを送る」と言っても、経営の視点で見れば、それぞれ、全く違った理由でのコストであることが分かると思います。

クルマ関連のコスト

営業や配送のためにクルマをたくさん使用している会社にとって「車両のコスト」は、相対的に重要なコストですが、この車関連のコストは、あちこちに散乱しているケースが少なくありません。

  • 車両の保険代は「保険料」
  • 燃料代は「燃料費」や「消耗品費」
  • 車両の税金は「租税公課」
  • 維持管理代は「修繕費」
  • 車両のリースは、コピー機などといっしょにして「リース料」
  • 高速代は「旅費交通費」

こんな感じです・・・。御社はどうですか?全部「車両費」としてまとめた方が「クルマ関連コスト」として分かりやすくなりませんか?

経営者の視点に立てば「保険コストはいくら?」より「クルマのコストはいくら?」の方に価値があるはずです。

ちなみに、頭の固い経理担当者や税理士は「まとめることに反対」というささやかな抵抗を示すことがありますが、そんなときは「補助科目で分類しておいて」の一言で引き下がるはずです(笑)。

交際費

「交際費」は、文字通り「交際に要したコスト」ですが、税務の視点も参考にすると「事業関連性」が大切な要件です。例えば、仕事と関係がない友人との飲食費は「事業関連性」が無いので会社のコストではありません。あくまでも事業の成長拡大や維持管理、あるいは改善のための交際に要するコストが「交際費」です。

この記事は「マネジメント会計(管理会計)」なので「税務の視点」は横に置いておきますが、交際費は「費用対効果」を可視化することが大切です。

交際費の金額が大きな会社の場合、私は「営業交際費」や「戦略交際費」と「経営交際費」と科目を目的別に分けようと提案します。

その理由は、進化型PL「MA損益計算書」のフォーマットにあります。

「財務会計」の場合は「販売費及び一般管理費」しかカテゴリーがないので「接待交際費」としてひとまとめになるのですが、「MA損益計算書」の場合、コスト区分が複数に分かれているので、広告会社やコンサルティング会社との会食は「戦略コスト」としての「戦略交際費」、得意先との会食は「運営コスト」としての「営業交際費」というような具合です。一方、業界団体でのお付き合いや、顧問税理士との飲食など、特に役員クラスの交際に要するものは「経営交際費」として「経営コスト」に区分表示したりします。

経理部門の抵抗への対処法

以上、マネジメント会計(管理会計)の情報価値を高めるためのコスト科目の視点を紹介しましたが、この改善を実行するとき、ときどき「頭の固い経理部門(税理士を含む)」の「めんどくさい抵抗」にあうことがあります。

「車両保険は、以前から保険料で処理してますから・・・」

「車両保険は、保険料で計上するのが常識です・・・」

「科目の変更は税理士さんに聞かないと・・・」

「前期と比較できなくなりますが、いいんですよね?(脅し?)」

などなど・・・。

このような「抵抗」には・・・「キミの仕事は事務処理じゃない。経営に大切な情報処理なんだよ。」と優しく返しましょう(笑)。

(参考記事)会計は「事務処理」ではなく「情報処理」であるという視点

まとめ

以上、中小企業のマネジメント会計(管理会計)の情報価値を高めるためのコスト科目の視点を紹介しました。

会計を「使える情報」にするためのコスト科目は、経営者のアイデア次第でもあります。

ただ、お気付きの方もいらっしゃると思いますが、実は、この話「マネジメント会計(管理会計)」に限った話ではありません。仮に、マネジメント会計を使わない場合であっても、なるべく「経営感覚に沿った科目で処理すること」は大切なことです。勘定科目を経理担当者や顧問税理士に任せっきりにせず「主役」となって見直してみてください。

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