中小企業の管理会計|投資分岐点と期待分岐点は明確か?

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この記事は、更新時の情報と筆者の考えに基づくものです。


2024年第22週の土曜日、順調ですか?私は、この週末「久しぶりの長崎Walk」でリフレッシュして、中々の上機嫌です。

さて、今週は会計ネタですが、以前から気になってた「投資分岐点と期待分岐点」についてまとめておきます。

これらの意味は文字通りですが、意外と「ちゃんとチェックしてない経営者」が多く、もし心当たりがあるなら、この機会に経営脳にインストールし、来週からの仕事に役立ててください。

この記事は「中小企業向け|マネジメント会計(管理会計)の設計と運用の概要」の補足です。

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投資分岐点・期待分岐点とは?

それぞれ文字通りで「投資回収できる分岐点は?」「期待値を超える分岐点は?」という意味ですが「損益分岐点」と同様、一部の例外を除いて、この指標は「限界利益」で求めます。

例えば、新商品の販売について、その調査費や開発費などの初期投資として1000万円を投下した場合、この1000万円を回収するには「1000万円の限界利益が必要」です。拍子抜けするほどシンプルで簡単な話です。

さらに、この新商品によって、2000万円の利益を期待するなら、投資回収と併せて「3000万円の限界利益が必要」となりますが、これが「期待分岐点」です。

「売上高」ではなく、あえて「限界利益」によって設定する理由は、「投資回収のために、***万円の売上をクリアしよう!」と売上高で設定してしまうと、それを超えるために想定以上の広告費を投下したり、あるいは、値引き販売してしまうことがあるからです。

これは、一般に「ROI(Return On Investment)」と言われる指標ですが、計算要素である「Return(利益)」と「Investment(投資)」の範囲を自社の事情に応じてよく吟味することが重要です。

売上高8000
売上原価4000
粗利益4000
広告費等1000
限界利益3000

ちなみに、これは「損益分岐点を限界利益で計算する理由」と同様です。

(参考記事)中小企業向「損益分岐点売上高」はナンセンス!の理由

中小企業でよく見かける残念な事例

私は、2022年まで30年以上にわたって税理士として膨大な数の中小企業の数字を見てきましたが、その中で多くの「残念な事例」を見てきました。(「投資回収のモニタリングは当然やん」という方は、このセクションを読み飛ばして、次に進んでください。)

投資額のデータを取ってない

「投資回収」や「投資分岐点」を計算するにあたって「投資額」を把握しないと、そもそも話になりません。しかし、多くの中小企業において、調査に支出した費用、実験開発に支出した費用、そのための出張旅費、購入品費などの「投資コスト」を記録せず、せいぜい経営者の感覚でしか把握しないないのです。これらの「投資コスト」は、試算表や決算書の「消耗品費」「旅費交通費」「雑費」など、「いつものコスト」とごっちゃにされ紛れ込んでしまっています。

売上高で回収した錯覚をしている

上記の「限界利益の話」です。1000万円の投資をして、1000万円の売上を獲得したら「投資回収できた」と錯覚している経営者が意外にも多いものです。

そもそも投資回収の意識が希薄

ここに書くのを躊躇うほど残念な事例も少なくありません。「投資回収」の意識が希薄で「新商品が立ち上がればいい」「いずれ回収できるだろう」「赤字になってないから御の字」と、ビックリするような話もあります。

投資には「時間」もある

マネジメント会計のサポートをしていると、当然ながら「お金の話」が中心になりますが、私は、この「投資」に関しては「時間」も重要な要素であることをアドバイスするようにしています。

前述した、一般的な指標である「ROI(Return On Investment)」は「売上高・売上原価・広告費」などで解説してある書籍や記事がほとんどですが、いわゆる「経営感覚」とは、少々ズレを感じます。

なぜなら「時間投資」もしているにもかかわらず、計算に含まれないからです。

「投資分岐点・期待分岐点」について、よりハードルを高く、厳しく設定するとすれば「時間投資」を含むことも検討してみてください。

たとえば、三日三晩、寝ずに新商品を企画して、それをリリースしたけど、10万円しか儲からなかった・・・という場合、経営者はどんな感覚になるでしょうか?おそらく、多くは「三日三晩も考えたのに10万円かよ・・」とガッカリするはずです。

しかし「ROI(Return On Investment)」は、投資ゼロで利益10万円なので「丸儲け!」という評価になります。

もし、この経営者の換算時給が3万円とすれば、@3万円*24h*3日=ナント216万円も投資しているのに、です。

補足ですが、この「投資時間」についての意識は、タイムマネジメントの習慣化にもとても有効です。

(関連記事)最高の人生のための「経営者のタイムマネジメント」

会計処理の実務

この「投資分岐点」「期待分岐点」のモニタリングにマネジメント会計(管理会計)が欠かせませんが、そのための実務は難しくないので、下記のような工夫をしましょう。

新規部門を設定する

対象が、新規事業レベルなのであれば「新規事業部門」を会計ソフトに設定し、関連する収益やコストを、他の既存事業と分離して入力処理ができるようにします。これによって「部門別試算表」を出力できるようになるので、それを毎月チェックしながら精度を高めていきましょう。

補助科目を設定する

対象が、新規事業レベルでもないなら、簡易的に「補助科目」を設定して、他の損益と区別できるようにします。「売上高:既存」「売上高:新規」というような具合です。毎月「新規」を検索して、集計することで「投資回収」をチェックできるようになります。

時間投資はどうする?

上述の「時間投資」の処理は少々マニアックな方法になりますが「部門振替(補助振替)」という方法で可能です。

例えば、上述のように経営者の換算時給が@3万円とした場合「今月は30時間の時間投資をした」とすれば、下記のような伝票(仕訳)を追加します。

(借方)役員報酬:新規部門:90万円/(貸方)役員報酬:90万円

計画段階の予算が重要

新商品や新規事業は、その計画段階において「予算」が必要なことは言うまでもないでしょう。

この「予算」において、重要なのは「いつ分岐点に到達するか?」という「時間軸」です。

上記の例のように、1000万円の投資をして、リリースした新商品の限界利益として毎月@100万円が見込めるなら「10か月で到達」です。リリースから半年は、広告投資が大きいので限界利益がゼロなのであれば、さらに半年が伸びて「16カ月で到達」という具合です。

トライ&エラーの効果

この「計画・予算」と「実績」を比較分析することが「経験値」を高める唯一の方法と言っても過言ではありません。この「トライ&エラー」によってチームは学びを得ます。

「行った・行かない」「努力が足りなかった」「運が悪かった」という会議になっていませんか?もし、そのような会議をしているようであれば、この「トライ&エラー」を試してみてください。業績だけではなく、チームのメンバーはワンランク成長するはずです。

まとめ

さて、どうですか?心当たりはあったでしょうか?「投資分岐点・期待分岐点」について整理しました。

関連記事も含め参考にしてみてください。

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