最高のチームを作るための
人材育成の仕組み
「3つの重要視点」

人が成長する会社にするためには、3つの重要な視点があります。

  1. 人材育成のゴールは「最高のチーム」を作ること
  2. 人とチームは仕組みで育てる
  3. 人が成長するカルチャーを作る

これらの3つの重要視点をふまえ、10人~100人規模の中小企業のための人材育成の仕組みの構築と運用について、その概要(アウトライン)を紹介します。まずは「全体像」をインプットし、その上で「弱点補強」に取り組んでください。

ゴールは最高のチーム作り

人が成長すれば
チームも成長するか?

経営者が、人材に成長してほしいと思うのは「もっといいチーム=もっといい会社」にしたいからに他なりません。

ただ、ここに大きな落とし穴があります。

「人が成長する」→「もっといいチームになる」ではない、ということです。これは、スポーツの世界でよく見かけることです。「スゴイプレーヤー」の効果はそれなりの期待ができますが、だからといって「必ずチームが強くなる」とは限りません。

正しくは「もっといいチームにするため」→「人を育成する」のです。

スポーツチームと同様、それぞれのポジションには役割があり、それに適したプレーヤーを配することでチームは強くなります。

人材育成にあたって、もっといいチームを作るためという目的・ゴールを忘れないようにしないと、せっかくの優秀な人材のパフォーマンスがチームに反映しないということになりかねません。

ゴールは「最高のチーム作り」であるという視点に注意しましょう。

チームが成長しない会社の共通点

育つ環境ではない

人材の成長には「素質・素養」と「環境」の2つの要件が必要です。

成長するかどうか?は、当然「成長する本人」によるところが大きいのですが、それと同じくらい「育つ環境」が大切です。劣悪な環境でも順調に成長する人材はいたとしても超レアケースでしょう。

その視点で「チームが成長しない会社」を観察していると、次のような共通点があります。

  • 楽しくない会社・チーム
  • 疲弊している・・・
  • 将来が見えない・不安
  • 満足できる待遇でない
  • 評価されない
  • 教育研修の仕組みがない

これらは一例ですが、各メンバーがこのように感じている場合、そもそも「成長へのモチベーション」が上がらないのも無理ありません。

なぜ、このような「環境」なのか?

厳しいことを言いますが、これは「経営」の問題であり、経営者に問題があると言わざるを得ません。「本人の素質や素養」の前に「成長するに十分な環境」が用意されているか?についてのセルフチェックが必要です。

経営者のマインドセットが弱い

人材の成長には、上述した「育つための環境」に併せて「経営者のマインドセット」が必要です。

ここで必要となるマインドセットは、「メンバーに成長してほしい」「もっといいチームになってほしい」という「願望」ではなく、「自分が育てよう!」という人材育成・チームビルディングへの「積極的な意欲」です。

経営者の考え方が「会社は何もしないけど、成長してね」という「相手任せ」である場合、それに応えて自主的・自律的・積極的に成長しようとする人材はマレです。

チーム作りに対して、経営者として真正面から取り組むマインドセットが不可欠であり、その「ホンキ度」がリーダーシップのベースとなります。

最高のチームのイメージ作り
3つのステップ

Step1:「理想のチーム」の可視化

上述したように、ゴールである「最高のチーム作り」のための人材育成です。

まずは「最高のチーム」を可視化する必要があります。あなたのとっての最高のチームとは、どんなチームなのか?です。

理念や価値観を共にできる仲間であることを前提として、事業パフォーマンスを最高にするためのフォーメーションを「組織図」に表します。どんな業務フローなのか?どんな指示命令系統なのか?など、実務的に詳細を詰めましょう。

また、もう一方で大切なのは「個々のメンバーにとって最高かどうか?」です。

事業が上手く回るフォーメーションであっても、そこで仕事する個々のメンバーにとって楽しくないものであれば、それは「経営者にとって都合のイイ形」に過ぎません。

ゴールである「最高のチーム」の可視化は「会社にとって」も「メンバーにとって」も、双方にとって最高である必要があります。

Step2:「理想の人材像」の言語化

チームのフォーメーションが決まれば、次は個々のポジションに配する「理想の人材像」を言語化するステップです。

例えば、営業チームのリーダーの理想は?その下の営業チームの各メンバーにはどんな人たちが?というように、各ポジションの役割を果たすために「どんな考え方が」「どんなスキルが」求められるのか?です。

これによって「理想の人材で組織された最高のチーム」の具体的なイメージが出来上がります。

Step3:各ポジションの課題整理

「最高のチーム」に進化成長するために、各ポジションのリーダーやメンバーの「理想像=あるべき姿」が明確になれば、「現状」と比較することで、それぞれの「成長課題」が明らかになります。

「当社のメリットを正しくお客様に伝えるスキル」が必要とされるが、現状におい正しく伝えれていないとすれば「プレゼンスキル」が成長課題だ、という具合です。この「成長課題」が「人材育成のテーマ」のひとつになります。

このように、各ポジションの「成長課題」を整理しリストアップすることで「最高のチーム」に進化成長するために「何を教えればいいのか?」「何をトレーニングすればいいのか?」、さらに「どんなメンバーを追加で採用すればいいのか?」を明確にすることができます。

人材育成の仕組み作り
5つのステップ

Step1:メンバーのニーズを知る

上記までのステップで「理想のチーム像」と「理想の人材像」が明らかになり、各メンバーの成長課題が明確になれば、次は、その課題の解決のための成長支援の仕組み作りです。

まず、その最初のステップとして「社員のニーズ」を知ることが欠かせません。

「顧客満足度」と同様に「社員満足度」を高めることは「もっといい会社」に進化成長するためにとても重要な要素ですが、そのために「社員のニーズ」を正しく理解しているか?の確認が必要です。

最近よく見かける事例として「お金よりプライベートな時間」を大切にしたいメンバーに対して「給与賞与」で応えようとしている「ズレ」があります。

また「リーダーとして活躍したい」というメンバー以外に「リーダーにはなりたくない」というメンバーもいるでしょう。

ひとつひとつのニーズにすべて応えるかどうか?は、その次の検討として、まずは「正しくニーズを知っておく」ということが必要であり、何より「社長は我々のニーズを正しく知ろうとし、また、可能な限り応えようとしてくれている」という姿勢を見せることがとても重要です。

Step2:成長のための「下地」を作る

  • 成長マインドセット
  • 人生に対する安心と期待

具体的な成長支援を行う前に「成長のための下地」が必要です。「下地」がグラグラしていると、どんな成長支援を行っても徒労に終わってしまいます。

この「下地」とは「成長マインドセット」です。

「成長マインドセット」とは、自分の能力は成長し進化するものだという考え方です。この考え方を持つことで、人はチャレンジし、ミスや失敗を経験として受け入れることができます。

反対に、自分はこれ以上成長しない(=固定されている)という「固定マインドセット」を持つ人は、ミスや失敗を恐れ、チャレンジから逃げるたり、あるいは自分自身の成長を諦めている傾向があります。

人材育成に取り組むための「下地」として、メンバーが「成長マインドセット」を持っているかを確認し、万が一、持っていなければ「固定」から「成長」に考えを改めてもらう必要があります。

その対策のひとつとして「人生における安心と期待」に気付いてもらうという取り組みがあります。

「この会社で成長することで、人生の不安は軽減され、将来、もっと楽しい人生を送ることが出来るかもしれない」という期待を持ってもらうことです。

そのために、具体的なキャリアプラン(人生計画)をサポートしたり、給与や賞与などへの信頼感を高めるという取り組みが必要になります。

  • 「この会社で働き続けて、自分の人生は大丈夫だろうか?」
  • 「どうせ、この会社で成長しても、たかが知れてる・・・」

そんな残念な思いを持っている人材が成長へのモチベーションを高く持ち続けられるはずがありません。

まずは「成長マインドセット」を持ってもらえるように「下地」を固めましょう。

Step3:成長とはナニか?の共有

人の成長、チームの成長、成長企業、成長産業・・・このように「成長」という言葉をよく使いますが、そもそも「成長とはナニか?」その定義については曖昧なものです。

「最高のチームを作るために、みんなで成長しよう!」と声をかけても、そもそも、それぞれの「成長の定義」が違えば、このスローガンは空しいものになってしまいます。

人材育成に取り組む前提として、この「成長の定義」を全員で共有することが必要です。

私が提案する定義は「成長とは、もっと役に立つために進化すること」です。

ほとんどの企業は「理念」として、表現こそ百社百様ですが、その意味として「社会の役に立つこと」を掲げています。

上記の「成長とはもっと役に立つこと」と言う定義と併せると「成長とは、理念を実現するために(=もっと役に立つために)進化すること」と言い換えることができます。

「企業理念」とセットで「成長の定義」をチーム全員で共有しましょう。

Step4:全員の基礎スキルを引き上げる

成長するために=もっと役に立つように進化するためには、スキルを高めなければなりません。

ビジネスにおけるスキルは、大きく「基礎スキル」と「実務スキル」の二つに分類することができます。

これは、パソコンやスマートフォンにおける「OS」と「アプリ」の関係によく似ています。

全員に共通する「基礎スキル(OS)」と、それぞれの職種における「実務スキル(アプリ)」です。

ご承知のように、どれだけ優れたアプリも「OS」がしっかりしていないとサクサク動きません。

人もまったく同様で「実務スキル」をサクサク動かすためには「基礎スキル」がとても重要です。

この「基礎スキル」には、様々ありますが、私が特に重要(優先)と提案しているのは、次の8項目であり、これは、新人も経営者にも共通しています。

課題発見力

何事も「どうあるべきか?」「理想形は?」を言語化し、現状とのギャップから課題を発見するスキル。

計画実現力

ゴールを定め、そこに至るシナリオやストーリーを描き、また、関連者をキャスティングするスキル。

管理力

想定外を回避するため、リスクとその被害を想定し、万が一に備えて事前準備や対処を行うスキル。

仕組化力

仕事の属人化を避け、自分自身のバックアップ体制を仕組みとして具体化、標準化するチームワークスキル。

コミュニケーション力

報連相、伝達、プレゼンテーションなど、他者との情報交換を円滑にするスキル。

論理的思考力

原因と結果を論理的に思考し、言語化するスキル。感想や感覚を避け、事実を積み上げて組み立てる思考習慣。

深広思考力

表面的なことに惑わされることなく、本質に迫るため深く、広く思考する思考習慣。

リーダ力

ポジションに関わらず積極的に率先し考動することで他者を動かすチームワークスキル。

「実務スキル」の前に「基礎スキル」が「OS」として優先的に重要であり、不可欠であることを全員で共有しましょう。

Step5:仕組みの運用
=PDCAを持続する

ここまでのステップで・・・

  1. 個々のメンバーのニーズを正しく理解している
  2. 成長マインドセットを持っている
  3. 成長の定義を共有している
  4. 基礎スキルの優先的重要性を理解している

・・・という状態になりました。

あとは、職種別の「実務スキル」をトレーニングをスタートすれば人材育成・成長支援の仕組みが回り始めます。これは典型的な「PDCAサイクル」です。

  • P:Plan
    成長課題の整理と解決法の具体化
  • D:Do
    研修やOJTによるトレーニング
  • C:Check
    人事評価における進捗状況の共有
  • A:Action
    成長課題解決のサポート

このPDCAは、実は「学校」と同じです。カリキュラムがあり、それにそった授業やトレーニングがあり、定期的なテストによって現状確認を行い、その後、必要な補習授業等によってフォローするという伝統的な「手法」そのものです。

「会社は学校じゃない!」という叱り方をする経営者を何人も見てきましたが、私は「会社は(人材育成において)学校だ!」という考え方です。

学校に倣ったPDCAを持続することが、人を育てるということにおいてはとても参考になります。

この考え方によると、部門リーダーは「担任の先生」であり、経営者は「校長先生」と言うことができます。人材育成に限れば、経営者は、生徒が活き活きと成長を続ける「いい学校」をマネジメントする「いい校長先生」なのです。

リーダー育成の3つの重要ポイント

Point1:役割の正しい理解と自覚

メンバーが増えてくると、チームは部門に分かれ、それぞれの部門にリーダーが必要になります。

各部門リーダーは、チーム全体のパフォーマンスを左右する重要な役割ですが、リーダー育成は、上述の仕組みに加えて「リーダー育成」特有の視点や仕組みが必要です。

そのひとつ目は「リーダーの役割の正しい理解と、その自覚」です。

リーダーとは「メンバーを育成しながら、部門のミッションを遂行する人」です。

この「メンバー育成」と「ミッション遂行」の二つがリーダーの大切な役割であることを、経営者と各部門リーダーで共有し、その上で各リーダーは「リーダーの自覚」を確認することがリーダー育成の最初のステップです。

Point2:リーダーの3つの視点

上記のリーダーの役割を遂行するために次の3つの視点が必要です。

  • 上下の視点:上位部門との連携の要となるポジションである
  • 左右の視点:他部門との連携の要となるポジションである
  • 中心の視点:自部門の中心的ポジションである

セクショナリズムに陥ることなく、常にチーム全体を俯瞰しながら、その最適解のために役割を遂行するために、これらの視点が必要であることを伝えましょう。

Point3:リーダーの会計力を強化する

リーダーが会計に強くなると、ワンランクもツーランクもチーム全体のパフォーマンスが上がります。

会計に強くなり、数字を活用することで、リーダーは部門の目標設定や、その達成度評価などが容易になります。これによりパフォーマンスの向上や課題の特定など、より具体的かつ客観的な判断や意思決定ができるようになります。

さらに、上記の上下・左右・中心の3つの視点における情報共有についてもとても効果的です。

感覚や直感だけではなく「客観的な数字」による判断や意思決定がとても大切であり、各部門リーダーは、積極的に数字を使う意識と取り組みが求められます。

仕組みが動き出すと
成長カルチャーとなる

成長が当たり前の企業文化

以上のように「めざす最高のチーム」を具体的に定義し、そのための人材育成を継続することで「学びと成長を重視する文化」が醸成されていきます。

成長が当たり前の企業文化成長カルチャー」です。

一時的、断片的な研修等では期待効果が得られないことは周知のとおりです。人材の成長・チームの成長には「持続可能な仕組み」が必要です。

トップリーダーである経営者の積極的なマインドセットによって、学校に倣ったPDCAを持続すれば「成長カルチャー」にまで昇華させることが可能です。

人やチームが成長するカルチャーは「最高のチーム」であるためのひとつの要件でもあります。

コミュニケーションとフィードバック

求める「成長カルチャー」を醸成するためには、仕組みを繰り返すための時間が必要であり、忍耐を伴いますが、それを少しでも軽減する方法として「コミュニケーション」と「フィードバック」が必要です。

そのためにチームの全員で共有しておきたいキーワードが「相互支援」です。お互いが、お互いの成長のためにサポートするという考え方です。

成長が滞るとき、その理由がスキルだけに限らず、メンタル的な問題であることも少なくありません。仲間の状態にお互いが気遣い、思いやりをもって接することの価値を尊重するように導くのも経営者の大切な役割です。

適切な時に、適切な方法で、良質なコミュニケーションとフィードバックが実践できるように注意を払いましょう。

まとめ「最高の幸せのために」

最高のメンバーとともに
理念を実現するという
「最高の幸せ」のために

以上、中小企業における人材育成の仕組み作りについて、そのアウトラインを紹介しました。

  • 人材育成の目的は「最高のチーム作り」であること
  • 経営者のマインドセットが大切であること
  • 人材育成のPDCAを持続すること
  • リーダー育成においては、役割と視点を共有すること
  • この取り組みによって成長カルチャーを醸成すること

人を育てることは簡単ではありません。「企業は人なり」といいますが、言い換えれば、会社を育てることは簡単ではない、ということでもあります。

この仕組み作りを「やるか?やらないか?」は経営者のマインドセットにかかっています。

「最高のチームの最高のメンバーとともに理念を実現する」という経営者にとっての「最高の幸せ」のための手段です。

自己内観の参考にしてください。

お役に立ちますように!

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