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この記事は、更新時の情報と筆者の考えに基づくものです。
10人~100人規模の中小企業で「業績連動型賞与」の仕組みを運用する際のデメリット・リスク・失敗事例などネガティブな側面をまとめます。
業績連動型賞与制度には、メンバーたちの経営参画意識の向上や、労使の信頼関係の強化、人件費の変動費化など、メリットも数多くありますが、反対に業績不振による原資不足や、情報漏洩、さらに人事評価の手間やコンサルティングコストなどのデメリットやリスクもあります。失敗事例も紹介するので、参考にしてみてください。
この記事は「業績連動型賞与の仕組み作りの概要」の補足です。
業績連動型賞与の主なデメリットとリスク
業績連動型賞与制度は、経営的な視点で見ると「会社の業績管理と人材育成を連動させる仕組み」であり多くのメリットがあります。
- 何より、もう賞与で悩まなくてよい。
- メンバー(社員)たちの業績への関心が高まり、経営参画意識が向上する
- 正当評価に応じた待遇となるため、また、計算プロセスがオープンになるため、労使の信頼関係の強化につながる
- 業績に連動させて人的コストの上限設定ができるので、経営リスクが軽減される
- 信賞必罰、優秀な人材ほど納得性のある制度
ただし、一方で次のようなデメリットやリスクを心配する声もあります。
- 業績不調の場合、賞与ゼロの可能性があり、モチベーションへの影響が心配だ
- 人事評価のための個人面談や評価集計等、手間がかかるのでは?
- 業績を社内公表するので、その情報が社外に漏洩するリスクがあるでのは?
- 導入コスト・運用コスト(社内コスト・社外コスト)が安くない?
それぞれについて、対処法を含めて紹介します。
業績不調で賞与原資がなくなるリスク
会社の業績は、良い時も悪い時もあります。残念ながら想定を超えて業績が悪く、ルール通りに計算すると「賞与原資がゼロになる」ということがありえます。
業績が悪くても毎日真面目に一生懸命頑張っている社員に対して「業績が想定以下なので、今回の賞与はありません」と言いづらい・・・という気持ちはよくわかります。確かにルールでは「ゼロ」なんですが・・・。
こんなとき、社員の多くは「業績連動型だから仕方がない・・・」と「頭」では分かっていても「とはいえ・・・」と、彼ら彼女らの「気持ち」は別方向に向いています。
このリスクへの対処法として「下限設定ルール」を盛り込むことがよくあります。最低保証額の設定です。
さすがに「ゼロ」はモチベーションへの影響がよくない、と考える場合「どんなに業績が悪くても最低保障として***円は支給する」という一文をルールに盛り込んでおく、という方法です。
ただし、私は、この場合は「逆」もセットにします。つまり「上限設定」です。想定をはるかに超えた好業績の場合、破格の賞与になる可能性があるからです。
私は、自社で業績連動型賞与制度を導入する際に社員全員の意見を聞きました。
- 好業績の場合、青天井にするなら、悪い時はゼロとなることもある
- ゼロを避けるなら、上限も設定する。
- 上限下限を設けるか、設けないか、君らが決めてくれ
そのときに彼らが選択したのは「青天井&ゼロ方式」でした。実際、数年前にゼロになったことがありましたが、大きな問題は生じませんでした。
このように業績不調で賞与原資がなくなる場合のルールはトラブル回避のために最初に決めておくことが大切です。
人事評価の手間がかかるデメリット
業績連動型賞与制度に限ったことではありませんが、人事評価の結果が社員の給与や賞与に直接的に連動するので、より慎重な人事評価が不可欠です。とはいえ、それを「手間」と感じる経営者は少なくありません。
でも「人事評価」を「手間」と考える経営者は(冷たいようですが・・・)業績連動型は導入しない方がいいです。業績連動型賞与制度の運用が新たなストレスになって、いずれ「やめたい」と思うようになります。実際、この相談は年に数回あります。
業績連動型賞与制度は「人材の成長を願い、その成長による成果をみんなで山分けしよう!」が大切な基本コンセプトです。このコンセプトを正しく理解し、納得できれば、たとえ「手間」と感じても、それはストレスとはならず、むしろ、成長する社員の評価が楽しみになるはずです。
業績情報が漏洩するリスク
「情報漏洩」は業績が計算ベースである業績連動型ゆえのリスクです。
賞与の根拠となる業績を社内に公表するということは「全社員がそれを知っている」ということです。「人の口に戸は立てられぬ」というように、ゼロリスクにはできません。社員たちのモラルを信じるしかない、というのが現実です。
それでも、可能な限りのリスクヘッジができるとすれば、業績の公表は「口頭で」ということくらいです。情報公開に当たっては「業績報告書」を人数分プリントして会議にて配布して公表し、会議終了後は回収する、という具合です。
私が経験した「苦い思い出」を紹介すると・・・「社員の家族から漏れた」という事例があります。
夫のボーナスに奥さんは興味津々・・・当たり前ですね。しかし、この奥さんが「井戸端会議」でついつい嬉しくて小学校のママ友さんたちに話してしまった、という例です。これは、たまたま「発覚」した例ですが、そうでないことも少なからずあると思います。
コストがかかるデメリット
導入コスト、運用コストですが、その「高いか」「安いか」の感じ方は人それぞれです。
当社は、設計・導入・運用のサポートに対して月額8~38万円(人数や既存のルールなどによって幅があります)を頂戴していますが、多くは「安い」とご評価いただいています。反対に、見積もり段階で成約しないケースは「費用が出せない」という理由がほとんどです。
こればっかりは、お客様に決めてもらうしかありません・・・。
ただ「成長支援型の人事評価制度と業績連動型賞与制度を運用することで、社員が成長し、その彼ら彼女らとともに得た成果=業績に応じて気持ち良く待遇を決めることができるようになる」ということの価値の対価として検討してもらえれば、と思います。
業績連動型賞与制度、中小企業での失敗事例
続けて、失敗事例も紹介しておきます。
見切り発車で失敗した例
個々の「貢献率」を計算するための人事評価にまつわる失敗例として「評価基準(=スキルチェックシート)の公表が遅れたケース」を紹介しておきます。
一日も早く業績連動型賞与制度を導入したかった経営者が「見切り発車」したケースです。
年末近くになって「今回の賞与は、業績と人事評価の点数に応じて支給します」と、評価基準(=スキルチェックシート)を配布しましたが、そのタイミングが悪かった・・・支給の直前での公表だったのです。
これは、いわゆる「後出しじゃんけん」です。社員側からすると「それって、最初に教えてもらわないと!」「ずるい!」と感じるのは当然です。せっかくの業績連動型の「第一印象」が悪くなってしまった例です。
ルール外のお手盛り支給で失敗した例
業績連動型賞与制度のルールに従って計算した結果を見た経営者、どうもイメージしていた金額とは違ったようで、特定の複数の社員に「社長賞」として加算しました。いわゆる「お手盛り」です。加算した社員には 「加算したのはあなただけだから、みんなには内緒だよ」と一言加えて・・・。
この経営者は、この社長賞をもらった社員は喜んでくれる、と信じていました。しかし、後日談ですが「僕は、あの時、社長が信用できなくなり、社長賞をもらったことが、他の同僚に対して申し訳なく思い、複雑でした。」と言っているのを聞いて、私も非常に残念な思いをしたということがありました。
その後、「業績連動型って建前だ。結局、社長がエンピツなめなめして決めている」・・・という社内の空気が数年続いてしまいました。
決して、ルールを逸脱した特別支給をしてはならないという出来事でした。
月次決算の精度が低くて失敗した事例
業績に連動させて分配をする以上、言うまでもなく業績計算の正確性は非常に重要です。
月々の経理処理が雑で「月次業績」が正しく表れていないとき、それを見た社員たちは違和感を感じ「これって信用ならんな・・・」と冷めていき「こんな数字で賞与が決まるって納得できない」と不満や不信に至る、ということがあります。
会計データを基にして業績を社内に公表し、それが、社員の待遇に直結していることを経理担当者や顧問税理士事務所には正しく理解してもらい、慎重に協力してもらうよう働きかけることを忘れてはなりません。「精度の高い月次決算」は、制度の信頼感を保つ上で非常に重要です。
(参考記事)マネジメント会計(管理会計)の設計と運用の概要
まとめ
以上、業績連動型賞与のデメリット、リスク、そして失敗例を紹介しました。
- 業績連動型賞与制度の主なデメリットとリスク
- 業績連動型賞与制度、中小企業での失敗事例
以上のようなマイナス面がありますが、どれもハードルが高いものではありません。ちょっとした工夫や改善でクリアできるものばかりですが、これらを踏まえて検討していただければ、と思います。
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