「逆転」の業績連動型賞与:どれだけ払いたいか?から逆算する

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この記事は、更新時の情報と筆者の考えに基づくものです。


賞与は「利益が確定した後に、その一部を分配する」という考え方が一般的であり、このブログで紹介している「業績連動型賞与」も、確定した利益から貢献度や人事評価のスコアによって分配することが前提になっています。

ただ、一方で、この考え方を逆転し、経営者として「どれだけ払いたいか?」を検討し、「賞与を目標にする」と考えることも選択肢です。

本稿では、視点を逆転させて、「目標賞与」を先に決めて、そのための「目標利益」を逆算するアプローチについて整理します。この考え方(方法)は、メンバーのモチベーションを高める仕組みとして一考の余地があるので参考にしてみてください。

本稿は、もっといい会社にするための実務マニュアル業績連動型賞与の補足です。

このブログでは「10人~100人規模の中小企業経営者」の方々に向けて「経営脳の自主トレサポート」を目的に「もっといい会社」にするためのヒントを発信しています。初めてアクセスしていただいた方は、こちら(=「このブログについて」)をまずご覧ください。

賞与に対する一般的な考え方

冒頭に書いたように、一般的には「確定した利益をベースに賞与を考える」という経営者がほとんどです。

十分な利益が確保できた時は大きな賞与、反対に利益が十分でない場合は、それなりの賞与になります。

最悪な場合には、賞与を支払う余力は無くても「ゼロ」というわけにはいかず、経営者は金融機関に出向き「賞与資金のための短期融資」を受けることも珍しくありません。

一方で、メンバー側は「今期は、そこそこ頑張ったから、たくさんもらえそう!」という期待は当然として、業績が悪い場合であっても、自分たちは頑張ったのだから「それに見合う賞与」を期待しています。

つまり、経営者側は「余裕が出れば支給する/余裕が無ければ抑制する」、メンバー側は「(実際の業績には関係なく)自分の頑張りに対して期待する」というのが、賞与に対する一般的な考え方の「主流」です。

生活給としての給与と利益分配である賞与

本題に入る前に、もうひとつだけ整理しておきます。

「給与」と「賞与」の違いです。

本来、給与はメンバーの生活のために支給するものであり、その決め方は業績ではなく、本人のスキルや成果によって決めるものです。会社の業績に関係なく、彼ら彼女らの生活を守るために雇用責任として負担すべきコストです。

一方で、賞与は、利益分配がその本質であり、メンバー側の視点に立てば「無くても生活には影響しないけど、あればいつもより贅沢ができる、あるいは、貯蓄をする余裕ができる」という性質のものです。

したがって、「業績が良いので給与を上げる」ことについては、ウェルカムなので誰も文句はないのですが、「業績が悪いので給与を下げる」というのは「筋・道理が違う」と禍根の種になってしまいます。

同様に、賞与は利益分配なので、業績が悪い時は「ゼロ」であっても「筋・道理」は通っています。

ただ、実際の中小企業の現場では、これらの「軸足」が定まらず、業績悪化を理由に減給したり、前述のように、業績が悪いのに借金をしてまで賞与を支給したり、ということが少なくありません。

目標としての賞与

一部の独裁的暴君な経営者を除いて、ほとんどの経営者は「給与や賞与をたくさん支給して、日ごろの活躍を労い、報い、そして喜んでほしい」と考えています。

しかし、その考え方に反して、給与や賞与の支給額の検討においては「利益ありき」になっていて、特に賞与は「結果」として計算しているのが実情です。

本稿の趣旨は、この考え方を逆転してみよう、ということです。

つまり「結果としての賞与」ではなく「目標としての賞与」。

どれだけ払いたいか?から目標利益=必要利益を設定してみたらどうだろう?という提案です。

もちろん、この「目標賞与」は、経営者の心の内に秘めるものではなく、メンバー全員と共有することで、彼ら彼女らの「業績に対する当事者意識」は激変し、それは意識や行動に表れるはずです。

「この目標をクリアすれば、希望通りの、いや、それどころか希望以上の賞与の分配がある!」という意識になれば、「がんばれば、たぶん、もらえるだろう」という「淡い期待」の対象であった賞与が、「強い目標」の対象に変わります。

目標賞与のための目標利益の設定

ひとつの計算サンプルを示しておきます。

下記の記事にも書いていますが、中小企業における「人的コスト比率」は、限界利益の40%以内に収めることがひとつの目安になります。

(参考記事)中小企業の人的コスト比率|人件費は限界利益の40%が上限?!

「人的コスト」には、文字通り、給与や賞与以外の通勤手当や社会保険の会社負担分、さらに福利厚生も含む「人に関するコスト全般」なので、ここでは「賞与は限界利益の10%」で試算してみます。

例えば、30人の会社において、一人当たり平均で@100万円/年の賞与を支払いたいとすると、下記のような計算になります。

  • @100万円*30人=賞与総額3000万円
  • 必要限界利益=3000万円÷10%=3億円

シンプルですね。

一人当たり平均で年間100万円の賞与を支払いしたければ「3億円の限界利益」を達成すればいいという計算です。

限界利益率が20%の会社であれば、売上目標は15億円ということになります。

目標賞与に連動させた目標利益の共有

前述したように、この「目標賞与」は、チーム全員の目標となります。

「限界利益3億円を達成して100万円の賞与をゲットしよう!」という目標設定です。

もちろん、これが単なるスローガンであってはなりません。

限界利益3億円を達成するためには「何をやればいいか?」「何をやめればいいか?」を考える場を設け、さらに、その進捗具合を月次でモニタリングし、それを共有し、メンバー個々の成長課題をクリアにしたり、チームとしての課題解決に取り組むなどの具体的な考動が欠かせません。

この日常的な取り組みによって、「会社の利益=自分たちの賞与」という認識が強まります。

ただ、注意点は「目標のリアリティ」です。目標は、現実的かつ達成可能なラインを見極めることが重要です。無理に高い目標を設定すると、かえって士気を下げるリスクもあります。

そのための私の提案は、下記のような「3段階の目標設定」です。

  • 限界利益3.0億円=平均賞与100万円
  • 限界利益2.5億円=平均賞与83万円
  • 限界利益2.0億円=平均賞与66万円

「確実なライン」を下限とし、併せて「ひょっとしたら行けるかも!」というチャレンジャブルなラインを上限として「幅を可視化する」ことで、リアリティは増します。

まとめ

さて、どうでしょう?視点を逆転して「目標賞与」から「目標利益」を計算するサンプルを紹介しました。

賞与は、業種や規模、各社のカルチャーによってもその仕組みや制度には差があります。

このサンプルをコピペするのではなく、これを参考に「当社のオリジナル」を考案しましょう。

関連記事も含め参考にしてみてください。

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