中小企業の管理会計|経営者が知っておくべき「在庫の知識」

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「在庫の評価」は、業績計算に大きな影響があります。「在庫評価の精度」は、「業績評価の精度」と言っても過言でありません。

この記事では、中小企業経営者が知っておくべき「在庫の基礎知識」について整理します。「ヌケモレ」がないかセルフチェックしてみてください。

この記事は「中小企業向け|マネジメント会計(管理会計)の設計と運用の概要」の補足です。

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会計における「在庫」と「利益率」の関係

日常会話における「在庫」は「倉庫にある商品」というイメージであり、会計においても基本的には同じイメージでいいのですが「倉庫にあっても在庫じゃない」「倉庫にない在庫」など、少々注意点があります。

会計における「在庫」について、整理します。

会計上の在庫

「会計上の在庫」は「仕入計上された商品のうち売れ残っているもの」です。

だから「倉庫にあるけど、まだ会計帳簿に仕入れとして計上されていない」とすれば「会計上の在庫ではない」ということになります。

反対に「倉庫にはないけど、すでに会計帳簿に仕入れとして計上されている」のであれば、そのうちの売れ残り分は「会計上の在庫」ということになります。

その理由は「売上原価の計算方法」にあります。

売上原価の計算方法

売れた商品の仕入れ値の計算、つまり「売上原価」を求める計算方法には2つあります。

  • (その1)売れた商品の仕入れ原価を合計して求める方法
  • (その2)月初+当月仕入の合計から月末在庫を引き算して「残りを売上原価」とする方法

会計の考え方は(その2)です。つまり、会計における在庫の扱いの最大の特徴は「売上原価を差し引き計算で求めるということです。

下記のイメージ図で簡単な計算例を示します。

会計における在庫と利益率の関係イメージ

上記のイメージ図を言葉で追いかけると次のようになります。

  • 月初には、500円の在庫があった
  • 当月、追加で3,500円の商品を仕入れた
  • 月末、棚卸してみると、1,000円の在庫があった
  • だから、売れたのは3,000円分の商品、つまり、売上原価は、3,000である
  • 売上は、4,000円なので、粗利は1,000円、粗利率は25%である

これが、上記の(その2)の計算プロセスです。(その1)のように、売れた商品の仕入れ原価を調べるのではなく、在庫を調べて差引計算で求めるのが会計のルールです。

だから、在庫計算を間違うと、それに伴って売上原価、さらに粗利、粗利率も全部間違って計算されてしまいます。

次に「粉飾決算=利益の過剰計上」になってしまう計算例を示します。

在庫計算を間違って「粉飾決算」になる例

差し引き計算で売上原価を求めるので(上記の例で)月末在庫は「正:1,000円」なのに、たな卸しをミスって「2,000円」とカウントしてしまうと、次のようになります。

会計における在庫と利益率の関係イメージ

(月初:500円)+(当月仕入:4,000円)のうち(月末:2,000円)が売れ残ったので、差引、売れたのは2,000円。

売上高が4,000円なので、利益率50%という計算になってしまいます。

本当の利益は1,000円なのに、決算書や試算表には2,000円と表示されます。

故意かどうかは別にして、正しい粗利は1,000円なのに、2,000円という過剰利益、つまり「粉飾決算」ということになります。

在庫計算を間違って「脱税」になってしまう例

上記のように、在庫を「過大計上」すれば「過大利益」になり、そのまま決算を締めれば「粉飾決算」となりますが、その逆、つまり「過少在庫」だったら?です。

当然、結果は逆になり「過少利益」となります。

正しい利益よりも少なく利益が計上されてしまいます。

ということは、課税所得も小さくなり、結果として「脱税」することになるので要注意です。

たな卸は「実地棚卸」と「帳簿棚卸」が必要

上述したように、「会計上の在庫」は「目視の在庫」とは一致しないことがあります。

「たな卸」というと、倉庫の現物を数えますが、これを「実地棚卸」といいます。実際の「もの」をカウントする作業ですが、これが「会計上の在庫」と一致しないケースとして、下記がよくあるケースです。

  • 仕入の請求書が20日〆なので、帳簿上「21日~月末」に納品された商品は計上されてない。でも、倉庫には「もの」がある。
  • 倉庫の「もの」の請求が「来月回し」になったので会計上は仕入れとして計上していない。
  • 仕入れた商品の一部が、得意先に預けているので自社の倉庫にはない
  • 仕入の請求書には記載されているが、納品遅れで「もの」は未着である

上記で紹介した計算式を丁寧に表現すると・・・

(期首在庫+当月の帳簿に計上された仕入)-(帳簿に計上されている仕入のうち月末に残っているもの)=(売上原価)

ということになります。

このように、たな卸は「現物カウント」だけではダメなので「帳簿棚卸」も併せて計算するように気をつけましょう。

在庫の評価は「最終仕入原価法」が原則

会計上の在庫について、もうひとつ大切なことを付け加えておきます。

それは「評価方法」のことです。

税法のルールによって「在庫の期末評価は最終仕入原価法による」ことになっています。

仕入日単価数量金額
1月100101,000
2月120101,200
3月140101,400
【合計】303,600

例えば、合計3,600円で仕入れた30個の商品の全部が在庫として残っている場合、3月末在庫の評価額は4,200円になります。3,600円で仕入れたのに・・・です。

これが「最終仕入原価法」です。

文字通り「最後に仕入れた単価で計算する」方法なので、@1,400×30個=4,200円なのです。

ひとつも売れてないのに600円の利益が計上されてしまいます。もちろん、その分の課税もあります。

ヘンですね・・・でも、これが「税務上の原則的なルール」なのです。

もし、単価変動が大きい商材を取り扱っているなど、この「最終仕入原価法」ではマズい!という場合は、他の評価方法もありますが、その場合は、税務署に事前の届け出が必要です。もし、該当するようであれば、顧問税理士に相談しましょう。(てか、聞く前にアドバイスがあるはずですがw)

在庫とマネジメント会計(管理会計)

中小企業のマネジメント会計(管理会計)において、在庫の金額が業績に及ぼす影響が大きい場合は、次のような指標をモニタリングします。

在庫回転日数

在庫金額/月間平均売上原価=**回/月

例えば、在庫500円、月間平均売上原価100円という場合であれば「月末には、5か月分の在庫がある」という計算です。

この月数は、取扱商材の性質や、販売戦略上の事情等によって、その適正額は様々であるので「**月以内にするべき」というような指標ではありません。

また、「月間平均売上高」、つまり「売価」で計算する方法もありますが、在庫が「原価」なので「原価/売価」で計算するのではなく、「原価/原価」で計算する方が適正(と、私は思ってる)です。

評価損益

バランスシート(貸借対照表)における「自己資本」は「名目(簿価)」と「実質(時価)」の両面で把握することが必要ですが、実質(時価)計算をする際に、在庫のウエイトが大きい場合は、その評価損益の計算が重要です。

例えば、帳簿上1億円の在庫があっても、その換金価値が3千万円と評価されれば、7千万円の評価損を含んでいることになります。

万が一の場合でも「最低でも仕入れ値に換金できる」という場合は、評価損はありません。しかし、仕入れ値を下回るようであれば、この評価損を抱えていることになります。

(参考記事)中小企業の貸借対照表|内部留保が分かる経営者になること!

キャッシュフローとの関連

ご承知の通り「在庫」は「寝ているキャッシュ」です。

在庫が増えれば、それに見合うキャッシュが出ていきます。

上記の「回転日数」と併せて、キャッシュフローに対する影響をモニタリングすることもマネジメント会計(管理会計)においては重要テーマです。

まとめ

さて、どうでしょうか?「中小企業経営者が知っておくべき在庫の基礎知識」を整理しました。

以上、都合上「物販イメージ」で説明しましたが、製造業における仕掛品や、建設業における未成工事原価なども、同じ理屈です。

関連記事も含め参考にしてみてください。

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