この記事は、約 6 分で読めます。
この記事は、更新時の情報と筆者の考えに基づくものです。
会社は、赤字で倒産するわけではなく「資金が尽きたとき」に倒産します。仮に「大赤字」が続いても、資金が続く限り会社はずっと生き続けることができ、それは金融機関等の融資に限らず、様々な支援金や補助金、スポンサーからの資本出資などによる「(冷静にみれば)延命措置」のケースにも当てはまります。また、反対に「黒字倒産」と言われるように、利益がどれだけ出ていても、資金が尽きればゲームオーバーです。
この記事では、経営者必修の「収支分岐点」について、その基本を整理しておきます。
この記事は「中小企業向け|マネジメント会計(管理会計)の設計と運用の概要」の補足です。
このブログでは「10人~100人規模の中小企業経営者」の方々に向けて「経営脳の自主トレサポート」を目的に「もっといい会社」にするためのヒントを発信しています。初めてアクセスしていただいた方は、こちら(=「このブログについて」)をまずご覧ください。
おさらい:損益分岐点
「収支分岐点」の前に「損益分岐点」をおさらいしておきましょう。
一般的に「損益分岐点売上高」として「黒字と赤字の境目の売上高」と説明してありますが、私は売上高ではなく限界利益で計算し、把握することをアドバイスしています。
「黒字と赤字の境目の限界利益」が「損益分岐点:限界利益」です。
この「損益分岐点」が、トントンであっても「収支分岐点」がマイナスであれば、資金は減っていきます。「損益」と「収支」を混同しないように気を付けて下記を読み進めてください。
(参考記事)中小企業向「損益分岐点売上高」はナンセンス!の理由
勘定合って銭足らず
最近は聞かなくなりましたが「勘定合って銭足らず」は、昭和の時代にはよく聞いた少々古いフレーズです。
このフレーズにはいくつかの解釈があるようですが、この記事の文脈では「黒字なのにお金が足りない」ことを指します。
一般的に「黒字の会社」は「儲かってる会社」だから「お金もたくさん持っている」とイメージされますが、必ずしもそうではありません。心当たりある方もいらっしゃるのではないか?と思います。
私も、税理士の現役時代によく「八つ当たり」されたものです(笑)。
- 税理士「社長!今回の納税は総額で1000万円になります!」
- 経営者「え!?1,000万円~!そんなカネないよ~!」
- 税理士「ちゃんと利益が出たから、納税額もそれなりになりますよ!」
- 経営者「おカネないのに、なんで税金を払わなあかんの?!」
(関連記事)これなら分かる!キャッシュフロー計算書を3ステップで作る
利益と資金がリンクしない原因
「利益の割には手元のキャッシュが寂しい」という感覚は多くの経営者が経験します。
この利益と資金がリンクしない原因の代表例は「返済」と「在庫」です。
利益以上の返済があったり、また、在庫が増えると手元のキャッシュはどんどん減っていきます。
簡単な計算例を示すと(税率を40%と仮定)・・・
【税引後利益を全部返済に回した】
- 税引前利益:1,000万円
- 法人税等:▲400万円
- 年間返済額:▲600万円
【税引後利益で追加仕入し在庫が増えた】
- 税引前利益:1,000万円
- 法人税等 :▲400万円
- 在庫増加額:▲600万円
この例では、利益相当の資金が流出しています。手元の資金は増えていないのに400万円もの納税が負担に(時には理不尽に)感じることもやむを得ないのかもしれません。
(関連記事)いまさら聞けない?「減価償却とキャッシュフローのキホン」
収支分岐点の計算例=正体は「必達税引後利益」
上記の例では、1,000万円の利益が出ているので「損益分岐点」は充分にクリアしていますが、資金増減はゼロ=トントンで「収支分岐点」はギリギリという状態です。
万が一、上記の例で「損益分岐点ギリギリ」であれば、手元の資金は600万円減少することになり、それが2年続くと1200万円、3年続くと1800万円と、あっという間に資金残高は枯渇し、追加資金を準備できなければ「赤字じゃないのにゲームオーバー」ってことになってしまいます。
あなたの会社の「収支分岐点」を計算してみましょう。計算はメチャクチャシンプルです。下記AとBの数字が分かればOKです。
- A:年間返済額は( 万円)
- B:年間の減価償却費は( 万円)
アタマに入れておく「収支分岐点」の正体は「必達税引後利益」です。
仮に年間返済額が600万円だったら、税引後利益として600万円が必要になりますが、減価償却費相当の資金は手元に残るので、仮に減価償却費が360万円だとすると、あと240万円の税引後利益があれば返済できます。
ということは・・・240万円/(1-40%)=400万円が必達の税引前利益です。
*法人税等の税率を40%と仮定
文章で追いかけると・・・「400万円の税引前利益が出たので、160万円納税すると、残りの税引後利益は240万円。減価償却費相当の資金360万円が残っているので、合計600万円の収支プラス。これを全額返済に回してトントン」・・・ということです。
年間返済額600万円-減価償却費360万円=あと240万円の「税引後利益」が必達という理屈です。
この「必達税引後利益」のための、必要売上高は?固定費の上限は?などと、別の数字に置き換えれば置き換えるほど、この収支分岐点はボヤけてしまいます。「手段の計算」も当然必要ですが、本来の目標である、この「必達税引後利益」を鮮明に理解しておくことが重要です。
黒字倒産しないための収支分岐点
「必達税引後利益」を下回ると徐々に手元資金は減っていき、追加の資金準備が必要になります。銀行融資などで、資金調達が続く間は「延命」しますが、同時に「返済額が増える」ので、「収支分岐点=必達税引後利益」のラインは上がっていくという「悪循環」が始まります。もし、資金調達が途絶え、資金が枯渇したら・・・その時点で「損益分岐点」をクリアし黒字であっても、ゲームオーバーです。これが「黒字倒産」です。
万が一、キャッシュフローがマイナスであれば、融資や補助金などによる「時間稼ぎ」が出来ている間に「収支分岐点」を反転させるための体質改善が必要です。
(参考記事)中小企業向「良い借金」と「悪い借金」
まとめ
さて、どうですか?「収支分岐点」の計算例を紹介しました。
- 勘定合って銭足らず=赤字で倒産するのではないこと
- 利益と資金がリンクしない原因は「返済」と「在庫」であること
- 収支分岐点の計算例=正体は「必達税引後利益」であること
- 黒字倒産しないために収支分岐点の把握が重要であること
「損益分岐点」を把握している経営者は少なくありませんが、意外と「収支分岐点」を正しく理解している経営者は少数です。資金に余裕があるときは、気にならないからです。また、銀行も営業に来てくれている間は「いつでも借りられる」という安心感から、この収支分岐点を疎かにしがちです。業績(=損益)が悪い時だけではなく、良い時であってもキャッシュフローをチェックし「収支分岐点」をひとつのKPIにすることを強くオススメします。
関連記事も含め参考にしてみてください。
もし、サポートが必要であれば、いつでも気軽に連絡ください!→「お問い合わせフォーム」
以上、お役に立ちますように!