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この記事は、更新時の情報と筆者の考えに基づくものです。
10人~100人規模の中小企業における賞与(ボーナス)の基本的な考え方から、業績連動型賞与の制度を作って運用するまでの一連の流れについて全体像をまとめます。
中小企業経営者のモヤモヤをスッキリさせる
中小企業経営者の中には「賞与・ボーナスの季節になると気持ちが重い・・・」と賞与の決め方で思い悩む方が少なくありません。
その理由は、次のようなモヤモヤがあるからです。
- 社員の頑張りに報いてあげたいけど、どれくらい出せばいいだろう?
- 会社として精一杯の誠意で支給しているのに社員たちは嬉しそうじゃない
- 賞与を支給してもなかなかモチベーションが上がらない
- 賞与の金額を決めるための査定(人事評価)が難しい
- 特別な功労があった者、反対に見過ごせないミスがあった者の金額をどうしよう?
- 賞与の季節になると、社内の空気がギクシャクする
- 社員とハラの探り合いをするのはやめたい
どれをとっても、まあまあ憂鬱なことです。
そこで、この記事では・・・
- シンプルで分かりやすくて、運用しやすい賞与のルールを作りたい
- 社員が納得し、モチベーションも上がるような賞与の決め方が知りたい
- 会社の業績や社員の貢献を各個人の賞与に連動させたい
このような(10人~100人規模の)中小企業経営者のために賞与の決め方や考え方の基本から、制度設計から運用について整理したので、この機会に是非スッキリしてください!
一般的な賞与(ボーナス)の2つの仕組み
まずは、一般的な賞与(ボーナス)の仕組みを整理してみましょう。
賞与は、
- 定期又は臨時に
- 労働者の勤務成績、経営状態等に応じて支給され
- その額があらかじめ確定されていないもの
なので、支給の都度金額を算定し支給するのが一般的です。
中小企業において一般的な賞与の仕組みには、大きく2つありますが、その2つを組み合わせた「ミックス型」も含めると3つになります。
- 給与連動型=(給与)×(?か月分)
- 業績連動型=(賞与総額)×(貢献率)
- ミックス型=(給与連動額)+(業績連動額)
「給与連動型」は、会社の業績や人事評価に関わらずあらかじめ「給与の〇か月分」と決めた金額を支給する方法です。
「業績連動型」は、文字通り会社の業績に応じた「賞与総額」を決めて、それを各自の評価によって分配する方法です。
なお、「賞与」を個別に計算するのではなく「給与」も合わせて「年俸型」を運用しているケースもありますが少数派なので、この記事では触れません。
ちなみに、私がコーチングの現場で、もっとも多くサポートしているのは「ミックス型」です。
これは、最低保証額(例;給与の2か月分)を「給与連動型」で計算し、予算や目標を超えた時など業績がいい時はその額に「業績連動型」で計算したプラスアルファを上乗せする、という方法です。
このミックス型にする理由は、業績が悪い時に「賞与ゼロ」となるのを避けるためですが、経営者によって「赤字の時は賞与はナシでええやん」という人、「社員も生活があるからゼロはアカン」という人など、考え方は様々です。
*業績連動型賞与の仕組みを理解するための(無料)テンプレートを用意しているので、この記事と併せてご覧いただくとさらに理解がしやすくなります。
(ダウンロードサイト:ビズオーシャン)https://www.bizocean.jp/doc/detail/547529/
賞与の総額の基準となる「業績」とは?
「業績連動型」の「業績」については、業種等によって何を指標にするかについて次のような値が考えられます。
ちなみに、賞与の決定においては、社員たちメンバーの納得性が重要なので「業績」と「その計算根拠」は、社内公開することが前提です。
基準となる業績 | メリット | デメリット |
---|---|---|
売上高 | 分かりやすい | 「逆ザヤ」売上があっても 賞与総額が増える |
限界利益 | 社内公開しやすい | 業種によっては、 管理会計や原価計算の手間が 必要になるときがある |
営業利益 | 利益分配の考えに一致する | ・役員報酬や、節税対策費用の影響を受ける ・損益計算書を公開しなければならない |
経常利益 | 利益分配の考えに一致する | ・役員報酬や、節税対策費用の影響を受ける ・損益計算書を公開しなければならない |
税引前利益 | 利益分配の考えに一致する | 上記に加えて ・臨時的な損益の影響を受ける |
オリジナルの指標 | 自由に設計できる | ルール作りなど、若干の手間が必要 |
いずれも、一長一短がありますが、私が関与している中小企業は「限界利益」か「オリジナルの指標」を採用しており、売上高やその他の利益を指標にしている会社はありません。
どれを選択するかの視点は「公開できるか?」「社員の貢献を最も表現しているか?」です。
(参考記事)業績連動型賞与|連動させる業績は何が良い?3つの事例
(参考記事)業績連動型賞与|賞与総額を計算する「分配率」の決め方
上記の「ミックス型」の計算例を示すと、次のようになります。
例えば、あらかじめ決めてある「分配率表」が次のようなテーブルの場合。
業績基準額 | 給与連動月数 | 業績連動率 |
---|---|---|
3億円 | 1か月分 | ゼロ |
4億円 | 2か月分 | ゼロ |
5億円 | 2か月分 | ゼロ |
6億円 | 3か月分 | 1% |
7億円 | 3か月分 | 2% |
業績基準額の実績が6億5千万円だとすれば、給与連動額として3か月分に成果分配額として6億5千万円の1%である650万円を総額に上乗せすることになります。
例えば、20人の会社で、平均給与月額が30万円の場合は、次のような計算になります。
*A:給与連動:30万円×20人×3か月分=1800万円
*B:成果分配:6億5千万円×1%=650万円
*A+B:賞与総額:2450万円
この2450万円を20人でシェアするので、一人平均 1,225,000円の「年間賞与」となります。
この「年間賞与」の夏冬の振り分けは次のようになります。
夏季賞与と冬季賞与と決算賞与の振り分け
賞与は、夏季と冬季の2回が一般的ですが、さらに3回目の賞与・ボーナスとして「決算賞与」を支給するケースもあります。
それぞれの振り分け例は、次の通りです。
夏季 | 冬季 | 決算 | |
---|---|---|---|
年2回の場合 | 給与×1か月分 | 年間賞与から 夏季賞与を 控除した額 | (なし) |
年3回の場合 | 給与×1か月分 | 給与×1か月分 | 年間賞与から 夏季冬季の賞与を 控除した額 |
「賞与は年間ベースで計算する」というのが基本的な考え方です。
上記の「給与×1か月分」というのは、例示であって「2か月分」という場合もあり、それぞれの会社の事情でそのレートを決定し、あらかじめルールとして社内公開します。
前項目の計算例において「夏冬2回」で、すでに夏季賞与で1か月分の40万円を支給しているとすれば、冬季賞与の一人平均は825,000円(=年間1,225,000円-夏季40万円)となります。
各自の支給額(分配額)の算出方法
上記で「賞与総額」が決まれば、次に「各自の支給額(分配額)」を算出します。
給与連動型の場合は「?か月分」と決まれば、全員一律に各自の給与に乗ずることで計算するので結果として「給与査定が賞与にも連動し反映する」ということになります。
ただ、それによって公平さが足りないようであれば「給与額×?か月×評価係数」というように、人事評価等の係数を乗じて、より公平になるように計算します。
なお「給与」には、基本給や諸手当がありますが、どこまでの範囲を含むか?については、制度設計時に慎重な判断が必要です。
一方で、成果分配型の場合は「賞与総額」に各自の「貢献率」を乗じて計算しますが、乱暴に言えば「山分け」です。この「貢献率」は、人事評価の評価点が基準になりますが、特別な貢献や、特別な減額要因があれば調整することになります。
いずれの方法においても、公平性や納得性のために「人事評価」は不可欠です。「人事評価」をせずに賞与を計算しても、冒頭の「モヤモヤ」は解消されないでしょう。
(参考記事)業績連動型賞与|各自への支給額計算「貢献率」3つの注意点
はじめての賞与(ボーナス)の仕組みづくり
以上が「計算方法」ですが、これを制度化するため、次は仕組みづくりの手順です。
賞与の仕組みを取り入れて運用するにあたっては、次の点に注意しましょう。
いずれも、社員たちの「納得感」が最重要です。
Step1:制度設計の前に「大切な視点」
まずは「制度設計」ですが、先にそのための大切な視点をまとめます。
設計段階において大切な2つの視点は「シンプル」と「オープン」です。
視点1:シンプルな仕組みであること
業績連動型賞与は、人事評価の結果に応じて個人の支給額(分配額)を計算をしますが、そのプロセスが複雑であると、経営側において運用が煩雑になるだけでなく、社員たちにとっても「よくわからないので、好きにして!」と納得感以前に冷めた気持ちになることもしばしばです。
経営側も社員側も「気持ちよく運用できてナンボ」です。なるべくシンプルに設計しましょう。
視点2:オープンであること
賞与の仕組=ルールは、社員たちに公開することが前提です。
どれだけ素晴らしい制度を設計しても、オープンでなければ社員からすれば「社長が鉛筆ナメナメ」と何ら変わりません。
計算プロセスにおいて「社員に納得してもらえない内緒のロジック」は不要です。
経営側も社員側も双方が「納得感」がある公平公正でオープンな制度を設計をしましょう。
Step2:制度設計の手順
賞与の仕組み作りは、具体的には次の手順で進めますが、詳しくは、それぞれの関連記事を参考にしてみてください。
手順1:人事評価制度の設計
まず、人事評価制度の設計ですが、これだけでも「それなりの時間」が必要です。その間にも賞与の支給時期はやってくるので「待ってられない!」という気持ちになることも十分想像できます。
実務的には、人事評価制度の設計と賞与・ボーナス制度の設計は表裏一体です。結果として同時進行になります。
(参考記事)中小企業向けの人事評価|仕組み作りと運用のアウトライン
手順2:基本方針を決める
前述した「給与連動型」にするか?「業績連動型」にするか?あるいは、併用する「ミックス型」にするか?基本方針を決めましょう。
手順3:たたき台の計算
現社員の全員について「人事評価点」のリストを作成しましょう。まだ人事評価制度がない場合も、経営者(社長)の直観でいいので、10点満点で暫定的にリストにしてみましょう。
想定する「賞与総額」を、全員の点数の割合で振り分けて「各自の賞与リスト」を計算して「たたき台」を作ってみます。
手順4:シミュレーション
手順3の「たたき台」の結果はどうですか?特に違和感がなければ、賞与総額を人事評価の結果でシェアする「試作品」の完成です。
しかし、違和感がある場合は、その違和感を解消するためにはどんな要素を組み込めばいいか?をシミュレーションを重ねて検討します。
また、なんらかの理由や事情によって「基準値が倍増したら?半減したら?」という極端なケースも試算する「上限・下限」の設計もこの段階で検討します。
手順5:社員の意見を聴取する
以上までの手順で「おおまかなイメージ」ができれば、主要社員に意見聴取をします。「みんなの意見を取り入れて設計した」というプロセスは意外と大切です。
手順6:試験運用
主要社員の意見も取り入れて調整してできた「仕組みの試作品」をいきなり本運用するのはリスキーなので、1~2年は試験運用において「これで大丈夫か?」の検証を行います。
この試験運用については、それぞれの会社の事情等があるので、その期間等はよく検討してみてください。
Step3:制度の導入「社内説明会」の実施
仕組み(ルール)が完成したら社内説明会を開催してリリースします。
リリースに当たっては必ず「マニュアル」を作成し、それに基づいて経営者自身(社長)が自ら解説します。
また、できれば、その様子はビデオ撮影しておき、後日、新人も閲覧できるようにしておくと便利です。
開催時期は「評価期間が始まる前」です。例えば、人事評価期間が「1月~12月」なのであれば、前年の12月には開催しましょう。
この説明会において「必ず正しく伝えること」は、「賞与は業績と個人評価に連動する」ということです。賞与は、決して保証されているものではなく、業績が振るわない時は「ゼロもあり得る」という話をきちんとしましょう。
(参考記事)業績連動型賞与のリスク回避|メンバーに必ず伝える3つのこと
Step4:制度の運用
ここまででお気づきのように、賞与の仕組みは「単体」では成り立ちません。「人事評価制度」の一部であり、その運用に他なりません。
繰り返しますが、実務的に「人事評価なし」で賞与・ボーナスの計算は可能ですが、冒頭の「モヤモヤ」の解決にはならず「ふりだしに戻る」ということになります。
頑張りどころ、です!
さらに有効な仕組みにするために
以上、10人~100人規模の中小企業が賞与・ボーナスを決めるための考え方や計算例を紹介しましたが、これとて「基本形」です。
さらに、有効な仕組みにバージョンを上げるためには次のような視点も大切です。
- 「企業理念」「経営理念」との整合性
- 「経営計画」の実現、達成への貢献評価
- 賞与ボーナス以外の各種表彰制度
これらのオプションを実施するためにも、まずは基本形の運用が日常になることを急ぎましょう。
まとめ
さて、いかがでしょうか?
「よし、これでイメージができた!」「さっそく取り掛かろう!」なのか?
「大変やな~」「こりゃムリだ・・・」「できるかなあ?」なのか?
賞与・ボーナス、さらには給与制度も含む「人事評価制度」の設計、運用は、それなりの工数、コスト、さらには、神経をも使うテーマで「ムリかも・・・」と二の足を踏む経営者も少なくありませんが、ここで、天秤にかけるのは「もっといい会社」です。
「人事制度・給与賞与制度」をやって「もっといい会社」にするか?
「人事制度・給与賞与制度」をあきらめて「もっといい会社」もあきらめるか?
言うまでもなく前者のはずです。
「産みの苦しみ」を伴うかもしれませんが、それをクリアして「人事評価を含む給与賞与制度」が、当たり前のように運用することができれば、チームメンバーとのコミュニケーションは益々良好になり、それによって当然、信頼関係も強くなり、また、メンバーたちは働き甲斐を持ってさらに成長を続けるような「もっといい会社」に進化成長するでしょう。
関連記事も含め参考にしてみてください。
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