人は消費する「資源」ではない。
人は投資する「資本」。
人材の価値を高め、
関わる人たちのみんなで幸せになる
「人的資本経営」。
10人~200人規模の中小企業経営者の「自己投資=経営脳トレーニングのサポート」を目的に、「もっといい経営者」「もっといい会社」に成長するヒントを日々更新しています。
40年近く税理士として中小企業経営を支援し、経営計画や管理会計、組織作りを専門とするマネジメントコーチ・堀井弘三が、その現場で得た豊富な経験と知識に基づき執筆しています。
初めてアクセスしていただいた方は、「このサイトについて」をまずご覧ください。
「人的資本経営」は、その多くは大企業を想定した文脈で登場しますが、その本質においては「大も小もない話」です。
むしろ、小規模ゆえに「人材の影響が大きい中小企業」においてこそ、重要な視点だと私は思っています。

本稿では、その提唱者であるノーベル賞学者ゲーリー・ベッカー先生の理論を紹介しながら、中小企業向けに整理します。
【先生紹介】
ゲーリー・ベッカー氏について
ゲーリー・ベッカー先生(GaryBecker,1930年–2014年)は、アメリカの経済学者で、経済学の応用範囲を広げたことで知られています。
先生は経済学の枠を超え、犯罪、教育、家族、差別などの社会的行動に経済理論を適用しました。
このアプローチにより、1992年にはノーベル経済学賞を受賞しました。
「人的資本理論」は、人々が教育やスキル習得に投資することを、企業が設備や技術に投資するのと同様に捉えるものです。
この理論は、教育や訓練が経済成長に与える影響を理解するための重要なフレームワークとして、多くの分野で活用されています。
人は資源ではなく資本である
人的資本理論の核心は、「人材」は投資によって価値が変動する「資本」として捉える点にあります。
似ている言葉に「人的資源」がありますが、資源は「使うもの・消費するもの」というイメージです。
「人的資本」と
「人的資源」は、
似て非なる、むしろ正反対の概念と言えます。
ベッカー先生がいう「人的資本」とは、個人が持つスキル、知識、経験、健康状態、そして人間関係などの能力やリソースのすべてを指します。
決して「スキルだけ」を指すものではなく、それらを総合する「人の価値」という意味です。
「人の価値」は、個人の価値創造力や収入に影響し、経済的な価値を持つ、あるいは産むので「資本」というわけです。
だから、人を犠牲にしたり、ガマンの上に成り立っている経営は、「資本を棄損する経営」と解釈することができます。
個人も会社も社会もよくなる
ベッカー先生の視野は、個人や企業にとどまらず、さらに先の「社会」にまで広がっています。
個々の人的資本の価値を高めることで、その集合であるチームの価値創造力が向上し、会社が成長する。
ひとり一人がもっと良くなれば、会社がもっとよくなり、結果として社会がもっとよくなる。
この「個人→会社→社会」という連鎖を、理想論ではなく現実のものにするための経営思想が「人的資本経営」です。
ベッカー先生は、この経営思想を具体的に実現するために「どうすればいいのか?」というヒントをたくさん残してくれた方です。
【価値整理】
人的資本の8要素
人的資本経営(Human Capital Management)は
人的資本価値を高めることで、
個人も会社も、
そして社会もよくする経営です。
その実務は「人的資本への投資」です。
投資目的の確認
まず
「投資目的」を明確にしておきましょう。
「なぜ、投資するのか?」です。
言い換えれば
「どんなリターンを期待してるのか?」です。
投資に見合う「働き」を期待するのは「人的資源」の考え方です。
「人的資本」の考え方が期待するのは「その人の幸せ感」です。
「人的資源の思考」に戻らないように注意が必要です。
繰り返しますが、人的資本経営の定義は
「個人も会社も社会もよくする経営」。
したがって
「本人も会社も社会もよくなること」が
「投資目的」です。
この目的を見誤ると、
誰かの犠牲によって
「会社だけがよくなる」
「社会だけがよくなる」ような
「人的資源経営」になってしまいます。
投資対象の要素分解
「本人も会社も社会もよくなること」が
「投資目的」だとすれば、次は
「投資先」である「人」への理解を深めましょう。
「人に投資」といっても漠然としています。
「人の何に投資するのか?」です。
ベッカー先生は
「人的資本とは、能力や知識、技能、健康状態、その他の個人の特性」と定義しています。
この定義を参考にして、私なりに
「人」を「要素分解」すると、
次の8つになりました。
いわば
「資本価値を左右する8つの要素」です。
「人の資本価値」を高めるために
「人のどこに?何に?」投資するか?。
*「人の価値が決まる要素」ではないので、誤解なきように!

8つの要素を「曼荼羅フレームワーク」に落とし込むと、この図のように表すことができます。
どれが欠けても良好なパフォーマンスを持続できないことが分かります。
この「8つの要素」に分解すると
- 「どのように投資するか?」
- 「どの投資が優先か?」
が、とても考えやすくなります。
*すでにお気づきかもしれませんが、このサイトで紹介している「経営脳の5つのレイヤー」も、この分類がベースになっています。
*このフレームワークは、ビズオーシャン(https://www.bizocean.jp/doc/detail/547917/)で無料ダウンロードしていただけますので是非活用してみてください。
【投資実務】
8要素に投資する視点
「人への理解」が深まり、
「投資先の解像度」が高まれば、次は
「投資の仕方」を考えましょう。
各自の「資本価値」を高めるには、
本人の努力が必要なのは当然です。

おんぶにだっこの人材には投資しようがありません。
でも「その気にさせる投資」は大切です。
それを前提として、
フォローやサポートの仕組みを考えます。
つまり
「各自の努力をサポートする仕組み」です。
上記の「8つの要素」ごとに例示してみます。
- ゴール
- 時間
- お金
- マインドセット
- フィジカル
- メンタル
- 基礎スキル・実務スキル
それぞれの会社の事情によって優先順位や取捨選択は異なりますが、これらの要素について
「投資方法は?」
「投資効果を最大化するには?」を検討することが人的資本経営のスタートとなります。
下記を参考に検討してみてください。
ゴール
「ゴール」とは、本人が
「会社の一員」として
「何を目指しているか?」です。
「本人のゴール」が明確でないと
会社にとっては、
「目的無き投資」になり
本人にとっては、
「目的無き努力」になってしまいます。
そのような「投資」や「努力」は続きません。
では、「ゴールに対する投資」とは?
それは
「ゴールを鮮明にするサポート」です。
すでに
「明確なゴールを持っている人材」なら
「追加投資の要否」を検討。
まだ
「明確なゴールを持っていない人材」なら
「初期投資の方法」を検討。
チームの全員が
「何のために努力するのか?」
「なぜ、成長が必要なのか?」を
「明確に答えられる状態」にするための投資です。
この投資は、「1on1」による個人面談等によってされることが一般的です。
時間
「時間価値の重要性」は言うまでもないでしょう。
一般で言うところの「生産性」、
このサイトでは「創造性」と言ってますが
その「分母」の話です。
パフォーマンスを最大化するために、
時間をどのように有効活用するか?。
チームの全員と「時間の価値」を共有することは、とても重要です。
簡単に言えば
「テキパキしてるチーム」と
「ダラダラしてるチーム」。
私の経験では
「チームの時間感覚」は
「リーダーの時間感覚」の「鏡」です。
「時間の価値」に関する投資は
「リーダーが背中を見せる」が
「最も実務的」と、私は思っています。



会議室の時計が
「秒で合ってる会社」って、
ほどよい緊張感が
漂ってるものです。
リーダーが時間に厳しいと、
チームは程よい緊張感を保つものです。
心当たりがあれば、経営者自身のタイムマネジメントスキルの改善のための「自己投資」をしましょう。
この
「経営者への直接投資」が
「メンバーへの間接投資」となります。


お金
「人的資本の価値」を左右する次の要素は「お金」。
「目的としてのお金」ではなく
「手段としてのお金」です。
経済的な安心感や満足感が
「人のパフォーマンス」に影響することは言うまでもありません。
経済的な不安や不満がある場合、
人は能力を発揮できないものです。
しかし、経済的な心配がなければ
人は思い切って活躍できます。



「現金なもの」だ(笑)。
その実務は「給与賞与制度」です。
大切なのは「将来ヘの安心感」が得られる制度設計です。
具体的には「キャリアパス」を仕組みとして明確にすることです。
30歳になったら、40歳になったら、50歳になったら…
メンバーが安心して家族計画や人生設計ができる制度。
そのために経営者が実務的に取り組むべきテーマは「長期計画」です。
「将来どうなるかわからない会社」からは
「資本流出する=優秀な人材ほど流出する」ということを忘れてはなりません。
「お金」を直接投資するのではなく
「安心」の仕組みに投資する視点が大切です。
マインドセット
身もフタもない話をすると
「人は、マインドセット次第」。



賛否両論あるかもですが
少なくとも、私はそう思っています。
私が、いつも「考動」と表記している理由でもあります。
人の行動は、その人の「考え方」で決まります。
上述の「ゴール」も「時間」も「お金」も、それぞれの価値観に大きく左右されるからです。
したがって
「正しい考え方」を整えるサポートは、
「人材投資」の中でも最優先かつ最重要のテーマ。
「関わる人たちの役に立つために」という
「正しさ」。
このサイトで紹介している経営者のマインドセット8選は、一般のメンバーにもあてはまります。
- 倫理観
- 使命感
- 成長志向
- 本質志向
- 学習志向
- 素直志向
- 柔軟志向
- 可能志向
「正しい考え方」に整えるために
「個人的な対応」も欠かせませんが、同時に
「組織的な対応」として
「正しい考え方」を企業カルチャーにする。
その「投資効果」は、想像以上です。


フィジカル
まさに「カラダが資本」というように、
文字通り「人的資本」のベースです。
メンバーの健康管理は、制約が多い中小企業においては手薄になりがちなテーマです。
メンバーの健康管理は「リスクマネジメント」でもあり、人的資本経営に不可欠です。
様々な福利厚生サービスの利用も一考ですが、そもそも清潔、安全な職場環境への投資は「人的資本経営」以前の話ですね。


メンタル
メンバーがメンタルに問題を抱えている場合は、パフォーマンスが上がるどころか「仕事どころじゃない!」ってことになります。
定期的にストレスチェックの実施(「従業員・ストレスチェック」などで検索)するなどして、メンタルケアに配慮する必要があります。
それを一時的なもので終わらせることなく、「持続的な仕組み」にすることは組織戦略の必須項目です。
メンバーの「ココロへの投資」を軽視しないようにしましょう。


スキル(基礎+実務)
「人的投資」で真っ先に思い浮かぶテーマなので、クドイ話は必要ないと思います。
ただ、メンバーのスキル開発においても、忘れてはならないことがあります。
それは「仕組化」です。
まさに「戦略」です。
単発的、非連続的な研修やセミナー参加は「知識補充」には有効かもしれませんが「能力開発」には、ほとんど効果はありません。
「一回聞くだけで習得してしまうスーパー人材」なら、それでいいでしょう。
でも、現実は「継続的な反復トレーニング」が必要です。
「カリキュラム」を明示し、継続的に「PDCA」を高速回転させて育てる仕組みに投資しましょう。


【組織戦略】
投資の相互作用効果
以上、人的資本の8要素と、それぞれを高めるための投資方法について考えてみました。
これらは、個別バラバラに運用しても、効果は限られてしまいます。
8つの要素はすべて相互に関連し作用します。
例えば:
- ゴールが明確でなければ、スキルアップの大義がなくなる
- 心身の健康が保たれなければ、スキルがあっても発揮できない
- 貢献評価と成果分配の仕組みがなければ、モチベーションは上がらない
8つの要素を統合し、一体として機能させる。
それが「人的資本経営」であり、その仕組みそのものが「組織戦略」といえます。
「戦略」とは
「期待する成果を得る仕組み」のこと。
その「仕組みへの投資」が、
直接的・間接的な「人的資本投資」となります。
【要点整理】善は急げ!
ゲーリー・ベッカー先生の「人的資本理論」をベースに、中小企業における「人的資本経営」の考え方を整理しました。
人を「コスト」ではなく「資本」として捉える経営思想。
人材投資によって価値が高まり、個人も会社も社会もよくなる。
ゴール、時間、お金、マインドセット、フィジカル、メンタル、基礎スキル、実務スキル。
8つの要素への投資を統合し、一体として機能させる「組織戦略」。
「人への投資が大切」なのは、聞き飽きるくらい見聞きしているはずです。
でも
「できてますか?」
「やってますか?」と問われると?
人的資本経営は一朝一夕に実現できるものではないため、手遅れにならないよう、できるところから取り組むことを強くオススメします。
善は急げ!です。
【関連記事】
「組織戦略」全記事リスト
1部:概要編
2部:組成編
3部:採用編
4部:育成編
このサイトでは、ひとりでも多くの経営者の方々のお役に立ちたいという思いを持って、なるべく深く、そして詳しく発信しているつもりなのですが、「ひと」に関することには「どうしても書けないこと=公表できないこと」があります。
特に、人事評価とか給与賞与に関するマネジメントには、その性質上「社員さんたちには知られない方がいいこと」があります。
お察しのとおり、このサイトは経営者の方だけではなく、一般社員さんたちもアクセスし読むことができます。
すべて「理想論」や「タテマエ」で解決できればいいのですが、「人に関する実務」はそんなに甘いものではなく、時には「荒療治」しなければならないシーンがあります。この「荒療治」を文字で誤解なく伝えることはとても困難です。
また、カモフラージュした「事例紹介」であっても、当事者の方々にとっては「あ、この記事、当社のことやん」ってすぐにわかってしまいます。それは、その社員さんにとっても「あ、自分のことだ」とわかってしまいます。「いい話」の場合はいいのですが「よくない話」の場合は、気分を害したり、あらぬ誤解を生じさせたりするリスクがあります。
このような理由で「トラブル解決系」や「裏技的な方法」は、一般公開しているこのサイトでは書けません。
「それが聞きたいのに・・・」と、物足りなさを感じられる方も少なくないと思いますが、何卒ご了承ください。
ただ、トラブルや裏技が必要になるときの共通した原因があります。それは、この「組織戦略」を疎かにしてしまったリバウンドであること。念のために書き添えておきます。

