本稿では、中小企業の「中期経営計画」の作成の具体的ステップを整理します。
「10人~200人規模の中小企業経営者」の「自己投資=経営脳トレーニングのサポート」を目的に、「もっといい会社」に成長するヒントを日々更新しています。
40年近く税理士として中小企業経営を支援し、経営計画や管理会計、組織作りを専門とするマネジメントコーチ・堀井弘三が、その現場で得た豊富な経験と知識に基づき執筆しています。
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【計画体系】
長期→中期→短期
まず、経営計画の全容を共有しましょう。
一般的に「中期経営計画」というと「単品」イメージがありますが、前提は「長期計画」です。
特に、オーナー型中小企業においては、「経営者の人生計画」という「長期計画」が前提です。
例えば、現在30歳の経営者が「中期計画」を立案する際は、次のようなプロセスになります。
- 引退想定:例えば「60歳で引退」
↓ - 長期計画
- 引退まで30年間「どのように過ごしたいか?」
- 引退は「事業承継」なのか?「廃業」なのか?
- どれくらいの「老後資金」が必要か?
- ↓
- 中期計画:長期計画の直近3年間の具体化
↓ - 短期計画:中期計画の初年度の行動計画
中期計画は「3年単位」が一般的です。
私は、これを「36か月」で策定することをおススメしています。
「3段の大きな階段」より、「36段の小さな階段」の方が登りやすいイメージです。
その理由は「連続性」と「具体性」です。
年単位の計画は「年ごとの3つの計画」に分断しやすいのですが、「月ごと」にすれば「連続する1つの計画」として策定することができます。
また、案外多い「年度目標の設定」で終わってしまう経営計画を「毎月のアクションプラン」まで具体性を高めやすいことも理由のひとつです。
【計画実務】
経営計画作成ステップ
Step0:ジブンの現在地
最初のステップは「0(ゼロ)」。
つまり、作成の前の「プレシンキング」です。
- 「なぜ、会社を経営しているのか?」
- 「経営者として、どんな人生を歩みたいのか?」
この2つの本質的な自問自答から始めましょう。
「え?そこから?」と思うかもしれませんね。
そう思う方のために、少し「たとえ話」をしておきましょう。
荒野の開拓計画
創業経営者にとって、「人生」は、「未開拓の荒野」での「街づくり」に例えるとわかりやすいと思います。
だから、2代目以降の経営者にとっては、「街の承継」です。
同じ「中小企業経営者」と言っても、私は「本質的に違う職業」とまで思っています。
今回の話は「創業経営者」の話です。
「未開拓の荒野」を開拓して「どんな街を作りたいのか?」、という「ゴールイメージ」が必要です。
もちろん「自然豊かな荒野で、あえて開拓せず自然とともに生きる」でもOKです。
また「技術水準が高く、高度に文明化した未来都市を作る」というのも面白いですね。
さらに、大きなリスクテイクをして「住民に任せる」も(私はイヤですが)選択肢です。
いずれにしても、この「意思」が「計画の起点」です。
「方針」はバラバラですが「荒野のオーナー」という意味で共通しています。
さて「どんな街を作るのか?」。
「県・市」に例えると、「県」が「人生」、「市」が「会社」です。
「人生の首都が会社」です。
だから「会社」が「人生」に大きく影響します。
- これが「経営計画」は「人生計画」の一部であり、前提である、と言っている理由です。
さらに、この「荒野開拓」は、一人でできません。
多くの人たちの協力、労力、モチベーションが不可欠です。
その人たちが「この荒野開拓、面白い!」と思ってもらう必要があります。
- これが「経営計画は、仲間へのプレゼンツール」と言っている理由です。
多くの問題を抱えている中小企業は少なくありません。
- 「ウソの計画」で仲間を欺いている経営者
- 「計画」を持たず、実質「日雇い労働者」でつないでいる経営者
- 逃げにくい状況の中で、なかば強制労働を課して独裁国家を作ろうとしている経営者
「経営者本人の人生」は、自由。おせっかいする理由もつもりもありません。
しかし、そのために誰かに過剰な負担や犠牲を強いるのは「いかがなもんか」と思うのです。
「参加者全員が幸せになれる魅力的な計画」が必要です。
- これが「経営計画」は、絶対必要!と説き続けている理由です。
洗いざらい「材料」を出し尽くす
いま、アタマにあるコト、閃いたコト、全部出しましょう。
準備するのは「紙と鉛筆」。
正直に、素直に「自分は何がやりたいんだ?」を自問自答。
「人のこと」「新商品・新サービスのこと」「新しい拠点拡大のこと」など、いろいろ出てくるはずです。
「やりたいこと」「やりたくないこと」
「望む状態」「望まない状態」
これが「ゴールの原型=計画の方向性」になります。
Step1:ゴールの解像度を高める

「ゴールの原型=計画の方向性」が決まりました。
「実務」に進みましょう。
「Step1」は「ゴールの解像度」を高めていきます。
「Step0」で・・・
- 「やりたいこと」「やりたくないこと」
- 「望む状態」「望まない状態」
の方向性を決めました。
次に、そのために「どうすればいいか?」を考えます。
- 「現状維持」で、それは実現するのか?
- 何かを変えれば、それは実現するのか?
- 何かを変えても、それは実現できないのか?
「ヒト・モノ・カネ」のフレームワークで考えると整理しやすいと思います。
- ヒト:組織・人員は?
- モノ:商品・サービスは?
- カネ:売上・利益・資金は?
これらの検討を重ね、「3年後のゴール」を明確にします。
Step2:ゴールするための具体策
「Step2」では、「ゴールするための具体策」を言語化、数字化していきます。
「こうすれば、ゴールできる」という方法です。
ここで、注意点があります。
例えば、「顧客を倍増したい」、だから「広告投資する」というアイデアがあるとします。
このアイデアは「広告が期待通りに当たる」ことが前提になっていますが、この前提をよく吟味しなければなりません。
「非現実的願望」の可能性があります。
もし、よく検討すると「広告力に課題がある」ということになれば「広告力を高める」という「新しい課題」が現れます。
このステップで「新たな課題」を可能な限りピックアップしましょう。
この段階のコツは2つ。
「どれだけ課題をもれなく出せるか?」
「どれだけの課題解決策を出せるか?」
このステップに丁寧に取り組むことで「精度の高い計画」を作る準備が整います。
Step3:スケジューリング
ここまでで「ゴール」と「具体策」が整理できました。
次に、これを「36カ月のスケジュール」に落とし込みます。
「アイデア」の「シナリオ化」です。
ここでは、「正しい計画の3要件」が重要です。
「G:ゴール」「S:シナリオ」、そして3つ目の「C:キャスティング:担当者」。
担当者が、シナリオ通りに行動すれば、本当にゴールできるのか?
繰り返しシミュレーションし、その精度を確認します。
その「原案」を「ガントチャート」で可視化します。
この作業は、必ずその担当責任者を交えて行い、「現場感覚」から乖離しないように注意しましょう。
「正しい計画の3要件」のうち「G:ゴール」「S:シナリオ」が、どれだけ立派にできていても「C:キャスティング」が不十分であると「絵に描いた餅」になってしまいます。
Step4:バランスチェック

「36カ月のシナリオ」の精度を高めていきましょう。
同時進行が多すぎないか?
「誰かに集中してる!」
人数が限られている中小企業でよくある症状です。
ガントチャートを「横に見たら」きちんとゴールまでたどり着いていて「できそう」です。
しかし「縦に見たら」どうでしょう?
一人の担当者が複数のテーマを「掛け持ち」になっていませんか?
その「掛け持ち」が「過剰」でないか?を確認しましょう。
Step5:数字化・予算化
ここまでのステップで、「方法」はまとまりました。
次の工程は「数字化」です。
- 販売・販促計画
- 生産・開発計画
- 組織計画
それぞれのテーマが整理され「3年間のシナリオ」がハッキリしました。
これらを「数字化」すれば、「予算原案」が出来上がります。
- 販売・販促計画に基づく「売上・粗利・広告・販促」
- 生産・開発計画に基づく「原価や投資」
- 組織計画に基づく「人的コスト」
- 上記に伴う「固定コスト・販管費」
この「予算原案」で計算された利益や資金繰りに問題があれば、ステップを遡って必要な修正を行い「リアリティー」を高めていきます。
この「数字化・予算化」の精度は「経営者の会計力」に左右されます。
もし、不安があるなら、次の2つを必ず行ってください。
- 過去2年分の決算書や試算表と比較し、差を確認
- 当社の数字を最も知っている人との意見交換(会計事務所の担当者や経理担当者)
注意点は「人任せにしない」こと、です。
Step6:経営計画書のリリース
経営計画書
- 表紙・タイトル・目次
- 経営理念・ビジョン
- 現状の課題
- 中期目標・短期目標
- 基本戦略+個別戦略
- 実行計画・アクションプラン
- 組織計画(組織図・採用・育成等)
- 予算・利益資金計画
- リスクと対策
ここまでのステップで「36カ月の経営計画」の「ラフ」が出来上がりました。
いよいよ「お披露目」、社内リリースに向けて「経営計画書」として体裁を整えます。
経営計画書は百社百様ですが、一般的に、左(上)のような構成になっています。
「経営計画発表会」のようなイベントとしてリリースすることが望ましいのですが、その際の注意点は下記のとおりです。
- 全員集合を原則とし、同じタイミング、同じ場所でリリースする。
- 最初に「正しく理解し共有すること」の重要性と、ひとり一人が当事者であることを伝える。
- 36カ月計画をチーム全員で共有し、それぞれが役割を正しく理解できるように配慮する。
- 予算や利益の計画など、非公開ページがある場合は「経営版」と「社員版」など複数のバージョンを作成する。
- 計画書に記載されているスケジュールは、事前に当事者と合意形成を済ませておくこと。
- 質疑応答の時間を作る。
- 録画することで、欠席者フォローのみならず、発表者である経営者自身の反省材料とすることができる。
【要点】「いい人生」のための「いい会社」
さて「中小企業の経営計画」の「6つのステップ」を紹介しました。
これは、ひとつのサンプルなので、それぞれの事情に応じてアレンジの参考にしてください。
ただし、次の「ポイント」を外さないように再確認しておきましょう。
- 計画作りの前に「アタマの整理」をして、「ゴール」のアウトラインを先出しする
- 「やりたいこと」を「できること」に具体化する過程で「ありったけの課題」を出し切る
- 36カ月のスケジュールに落とし込む際に、必ず担当者をキャスティングし「兼務」が過剰に重ならないように調整する
- 予算化は、人任せにせず、経営者自身が最終確認をする
- リリースは、全員に同タイミングで
最後に「身も蓋もない話」になりますが、「経営計画」は「習うより慣れよ」です。
「勉強してから作ろう」というものではなく「作りながら学ぼう」です。
さっそく、取り掛かりましょう!
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中小企業の経営計画実践ガイド
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- 02:経営計画の本質|幸せな引退のための「10年計画」
- 03:経営計画の基礎|36ヶ月計画の「6ステップ」
- 04:経営計画の実務|上手に運用する「コツ」
- 05:経営計画の種類|成長段階別「7つのパターン」
- 06:経営計画の工夫|長いなら「四半期」で区切る
- 07:経営計画の良否|良い計画は「ゴール=目標」が秀逸
- 08:経営計画の失敗|質が伴わない量的拡大プラン
- 09:経営計画の盲点|売上は目標利益から逆算する
- 10:経営計画の効果|「強い気持ち」で収益力強化
- 11:経営計画の目標|利益の目標設定「6パターン」
- 12:経営計画の目標|賞与から利益を逆算するシン視点
- 13:経営計画の目標|「定量」と「定性」の複眼視点
- 14:経営計画と組織|「最高のチーム」という目標設定
- 15:経営計画の盲点|「生涯収入」の見込みと目標設定


