第1章で、成長の本質を示した。
成長とは「貢献度が高まる進化」であり、その目的は「3Gの人々の持続的な幸福」である。
その方法は「自己投資」である。
第2章では、成長の方法を示した。
4段階の成長プロセスを実践するにあたり、考動の質を高める8つのフレームワークを日常使いする「フレームシンカー」という概念を提示した。
「自己投資」を効果的に進め、期待するリターンを得るために、もうひとつ重要な視点がある。
「時間」である。
本章では、単なる効率化技術としてのタイムマネジメントではなく、人生の幸福確率を高めるための時間資源の有効活用という視点から、経営者の時間戦略を整理する。
1節:時間の価値
(1)経営資源としての時間の価値
第2章で示した経営資源「ヒト・モノ・カネ・トキ・ジブン」の中で、時間は唯一、万人に平等に与えられ、非再生的な資源である。
人生の時間は有限である。
特にオーナー型中小企業においては、時間投資の優劣は、経営者自身の人生、さらには家族や大切な人々の人生をも左右する。
当然、その影響は、直接的、間接的に3Gの人々にも影響が及ぶ。
つまり、経営者の限られた時間を、3Gの人々の持続的な幸福のためにどう使うか。
この問いに答えることが、時間戦略の本質である。
時間資源の配分は、常に「自分自身の人生目的」と「3Gの持続的な幸福」に照らして判断することが極めて重要である。
(2)時間管理の目的は「効率」ではなく「効果」
一般的に、タイムマネジメントとは「効率よくタスクをこなす手法」という「時短」に着目し、それを優先するという誤解が多い。
しかし、時間管理の本質は、時間の有効活用であり、目的のためであれば充分な時間を費やす視点も忘れてはならない。
「どうやって早くするか」だけではなく、「効果を得るために、どう時間を使うか」である。
あくまでも、人生の目的(幸福)の実現確率を高めるために、時間資源を戦略的に配分することに本質がある。
タイムマネジメントは、最も効果のある考動に優先的に時間を配分するための方法論である。
2節:戦略的配分の原理
時間配分は、まず、大きく2つに分けることから始める。
第1「守りのための時間投資」
守りとは、最低幸福を阻害するリカバリー課題の発生を未然に防ぐことを指す。
もし、すでにリカバリー課題が発生しているなら、実務的視点においては、その現象を解決することが先決である。
しかし、自己投資の視点においては、その根本的な原因を自分自身に求め、その課題解決によって再発を防止しなければならない。
二度と同種のリカバリー課題が発生しないように、経営者自身を更新するための時間投資である。
第2「攻めのための時間投資」
攻めとは、充足幸福のためのアドバンテージ課題を解決し、さらに幸福を拡張することである。
さらに幸福感を強くし、また、持続力を高めるために、経営者として何が不足しているかを明確にする。
その不足分を成長課題として、その解決のためにする時間投資である。
ただし、守りが甘い状況で、攻めの時間投資をしてもリターンは限られる。
穴を塞がずして注水しても、水は溜まらないのである。
3節:時間創出の原理
自己投資には、可能な限り多くの時間を投資したい。
そのために重要な視点は「創出」である。
(1)前提としての時間記録
時間創出の第一歩は、「24時間」の可視化である。
タイムマネジメントは、時間の記録が前提となる。
これは、会計記録の目的と本質的に同じである。
会計帳簿がなければ、財務改善は不可能であるのと同様、タイムマネジメントには、例えるなら「時間帳簿」が必要である。
会計記録をせずに「なぜか資金が足りない」と頭を抱えている経営者と、時間記録をせずに「時間がない」と言っている経営者は同じなのだ。
時間記録を継続し、自己投資に向けている時間を定点観測する。
その過程で、ムダな時間や、優先順位の低い時間を削減することで、自己投資に向ける時間を創出できる。
コスト削減により増益に取り組むのと、これもまた同様である。
(2)時間の量を創出する
時間の量を創出する方法は、大きく三つある。
第一に、「非効率な業務」の改善である。
慣習的に行っている業務の中には、効率化できるものが意外に多い。
省略、自動化、電子化、外注化など、従来のプロセス改善の手法によって時間を捻出する。
第二に、「非本質的な考動」からの開放である。
3Gの人々への貢献度が低い考動を特定し、それを止める、あるいは他者に交代することで、そこに費やしている時間を開放する。
第三に、「低品質な考動」の削減である。
第2章で示した「フレームシンカー」の習得により、非効率的でやり直しの多い考動を減らす。
これは、自己投資によって時間そのものを生み出すという、最も高度な時間戦略である。
(3)時間の質を高める
時間資源は有限であるからこそ大切に無駄なく活用するべきである。
そのために、時間の質の視点が重要である。
同じ1時間でも、集中力の高い時間帯とそうでない時間帯では、その密度は大きく異なる。
継続的な時間の記録から、集中力の濃淡を把握し、日常業務と投資、そして生活時間の再構築によって適正配分する。
また、自分の集中力を意図的に高めることで、密度を濃くすることができる。
これは、Layer3のメンタルを整えた効果が最も現れる点でもある。
4節:まとめ
本章では、時間管理を人生の幸福確率を高めるための時間資源の戦略的配分という論理で整理した。
- 時間が、有限の経営資源であること。
- 幸福の2層構造に合わせて「守りと攻め」で区分すること。
- 時間を創出し、その密度を高めること。
- これらはすべて、WANT動機に基づく自己投資を持続させるための論理的必然である。
以上、第5部の論理を統合する。
第1章で、成長の本質と目的を明らかにした。
- 成長とは「貢献度が高まる進化」であり、その目的は「幸福」である。
- そして、誰にでも「成長の余白」がある。
- 完全なる経営者でない限り、成長は可能である。
第2章で、自己投資の実践ロジックを示した。
- 成長の4段階プロセスと8つのフレームワーク。
- フレームシンカーとして、考動の質を高める道具を日常使いする。
第3章で、その継続の仕組みを論じた。
- 時間戦略。限られた時間を、幸福のために最適配分する。
- 自己投資によって考動の質を高める。考動の質が高まれば、低品質な考動時間が減る。
- 低品質な考動時間が減れば、さらに自己投資の時間を確保できる。自己投資の時間が増えれば、さらに考動の質が高まる。
- これが、成長の好循環である。時間戦略とは、この好循環を実現することに他ならない。
これらの論理を統合すれば、経営者の成長は偶然ではなく、必然となる。
- 論理的方法論で成長する。
- 正しい方法で継続する努力。
中小企業経営者の最幸の人生のために必要なのはこれだけである。
以上、本稿「中小企業経営者論」の結論である。
了。
