第1章で「成長の本質」を明らかにした。
同時に、誰にでも「成長の余白」が必ずあることを断言した。
つまり、誰でもさらなる成長が可能である。
その方法は「自己投資」である。
本章では、この「自己投資」の実践ロジックを整理する。
1節:成長の4段階プロセスの再確認
第2部第3章で、経営者の成長プロセスを4つの段階で整理した。
ここで、その要点を再確認しておく。
(1)段階1:人生目的の明確化
経営者の成長の出発点は、人生目的を明確にすることである。
「なぜ成長したいのか」の答えは、常に「幸福になりたいから」である。
重要なのは、自分にとっての幸福を、心の本音で言語化することである。
(2)段階2:人生と会社の目的の整合性
経営者と会社は表裏一体である。
経営者は、幸福になるために創業し、そして日々事業を営んでいる。
人生の目的と会社の目的が不一致であれば、それは「矛盾」と言わざるを得ない。
「なぜ、会社を経営しているのか」
この自問によって、整合性を確認する。
(3)段階3:目的実現のための手段設計
次に、目的を実現するための手段を設計し、それを経営計画として具体化する。
経営者と会社の目的が整合していれば、経営計画の実現は、経営者と会社の両者にとっての目的の実現となる。
つまり、オーナー型中小企業において、会社の経営計画は、経営者の人生計画に他ならない。
(4)段階4:手段実行のための自己投資
計画通りに実行すれば、目的は実現する。
目的が実現しないとすれば、計画か実行のいずれかに、あるいは両方に問題があるからである。
しかし、いずれにしても、その本質的な原因は経営者にある。
その原因は、経営者自身の成長課題に他ならない。
経営者は、自己投資によって自らの課題を解決しながら計画実現の確率を高めていく。
以上、この4段階が、経営者の幸福実現のための成長プロセスの基本構造である。
2節:フレームワークの必要性と有効性
上記、成長の4段階の実践において「道具」を活用することが効果的であり、かつ、合理的である。
世の中には「便利な道具」がある。
自己投資に対して苦手意識を持っている多くの経営者に不足しているのは「道具の知識」と言っても過言ではない。
「手作業では困難」な作業も「道具を使えば簡単」になる。
この「道具」は、一般的に「フレームワーク」と言われ、いわゆる思考の「型」のことである。
一見複雑に見える様々な現象を、構造化して整理することができる。
「型」を身に着けた格闘家と、そうでない素人の差の如し。
その差は歴然である。
格闘家にとっての「型」は、経営者にとっての「フレームワーク」である。
「型」は、不規則に動く思考に、一定の規則性を与えてくれる。
「型」を覚えることは、「頭の使い方」を覚えるに等しい。
頭は良くならなくても、その使い方を良くすることは、誰でも可能である。
例えば、経営者にとって最も身近で有効な例の一つが「売上=単価×数量」である。
「増収対策」を、「単価の対策」と「数量の対策」に分解して思考するだけで解を得やすい。
このように、「型」に沿って整理し、構造化することで、「課題の特定」「対策の精度」「思考の網羅性」などを高めることができる。
3節:8つのフレームワーク
経営者の成長に特に効果的なフレームワークを8つを厳選する。
これらを習得し「使い慣れること」で、思考の精度と速度は飛躍的に高まる。
(1)経営脳の5レイヤー
第4部で示した「経営脳の5レイヤー」は、経営者の総合的能力を5つに要素分解したフレームワークである。
マインドセット、フィジカル、メンタル、スキル、センスという5つのレイヤーに分解することで、経営者の「強味・弱点」の解像度を高めることができる。
例えば、単に「いい経営者」という表現は、「言葉鮮明・意味不明」の典型である。
このフレームワークで思考すれば、「何が良い経営者/何が悪い経営者」というように、理由を加えた表現に変えることができる。
(2)ヒト・モノ・カネ・トキ・ジブン
経営資源を5つに分類し、視点の漏れを防ぎ、網羅的に思考するためのフレームワークである。
伝統的な「ヒトモノカネ」に「トキ」と「ジブン(経営者自身)」を加えた。
オーナー型中小企業は経営資源が限られている。
したがって、時間の相対的価値は非常に高く、その有効活用を軽視することはできない。
また、自己投資の対象でもある「ジブン」という経営資源を避けて通れないのは言うまでもない。
(3)ゼロ線思考
課題をリカバリー課題(マイナスの解消)とアドバンテージ課題(プラスの拡大)に分類し、その境界線を「ゼロ線」と表現したフレームワークである。
課題を大きく2分することで、解決の優先順位を明確にする。
第3部第2章で示した、「最低幸福」と「充足幸福」の「幸福の二層構造」は、このフレームワークに当てはめた構造である。
リカバリー課題を放置したまま、アドバンテージ課題の解決に取り組んでも、多くの場合は成果に結びつかない。
経営資源の浪費を防ぐために、有効かつ重要なフレームワークである。
(4)結果=考え方×行動
本稿で「考動」と表現している意図をフレームワークにすると、この「方程式」になる。
このフレームワークを少しアレンジすると「同じ考え方×同じ行動=同じ結果」となる。
「何度やってもダメ」と感じたときに思い出すと効果的である。
「違う結果」を求めるときは、考え方か行動、あるいは両方を変える必要があることに気付かせてくれるフレームワークである。
(5)なぜなぜ分析
現象が起きた真因にたどり着くための伝統的なフレームワークである。
表面的な現象にとらわれることなく、物事の本質に迫るために有効である。
失敗だけでなく、成功の原因についても「なぜ」を繰り返し「真因」を突き止める。
この習慣がある経営者は、効率的に経験を能力に変換していく。
(6)モノ×コト
商品やサービスの価値は、多くの場合「モノ:品質価値」と「コト:感情価値」に分解できる。
メーカーにおける商品とアフターサービス、飲食店における料理と接客などが典型例である。
「モノが普通×コトも普通」であれば、その価値は「普通」である。
「最高の料理×ひどい接客」であれば、その価値は「台無し」である。
商品やサービスの戦略設計に有効なフレームワークであるだけでなく、人の気持ちに思いを馳せるために有効である。
(7)知×考×動
会社経営に限らず、マネジメントの実務は「知ること・考えること・動かすこと」の3つの組み合わせである。
期待する成果が得られない時の原因は、「充分な情報や知識」「充分な思考」「充分な行動」、このいずれかの過不足である。
「知っていたか」「考えぬいたか」「充分に動いたか」
この自問自答によって、成長課題の解像度を高めることができる。
(8)習慣化の4ステップ
理解→納得→考動→習慣。
意識的な考動を最小限の意識で自動化するためのステップである。
習慣にしたいことの論理や構造を正しく理解し、それに納得することで、行動は、WANT動機となる。
WANT動機なので持続する。
持続するから習慣になる。
経営者にとって、重要な習慣のひとつは、経営の原理原則に沿った考動である。
経営の原理原則を理解し、納得し、意識的に考動する。
それを持続するので「正しい考動」は、習慣化されていく。
4節:フレームワークの使い方
前節では、8つのフレームワークを提示した。
次に、この「道具」の「使い方」を整理する。
(1)フレームワークの自由度と非完全性
第1部第2章で示したフレームワークの使い方の重要視点を再確認しておく。
思考整理のための道具
フレームワークは「考え方の型」である。
論理や因果など思考整理をしやすくするための道具に過ぎない。
そこから解を導き出すのは、あくまでも利用者である。
フレームワークから解はでてこない。
カスタマイズ自由
道具は、自分に合わせて自由にカスタマイズしてよい。
むしろ、使いづらさや違和感は、アレンジのサインである。
伝統的な「ヒト・モノ・カネ」に「トキ・ジブン」を加えたのは、その典型である。
非完全性
フレームワークの要素を見て「例外がある」「網羅されていない」と指摘する向きがいる。
しかし、これは本質的な批判にはならない。
利用者に「合ってない」だけであり、使いづらさは上述したようにアレンジすればよい。
フレームワークに完全性や網羅性を求めることは、すでに自責思考からの逸脱の兆候である。
(2)フレームシンカーという概念
思考の質を高めるために、日常的にフレームワークを有効活用している人を「フレームシンカー(Frame-Thinker)」と呼ぶ。
まだ、一般的な呼称ではないが、自己投資の目標設定のためには有効なキーワードだ。
経営者は、考え→行動し→成果を得るというシンプルなサイクルを繰り返している。
このサイクルの起点で、フレームワークを有効活用すれば、行動の質向上を経て、成果確率が高まる。
この「フレームシンカー」の考動特性を習得し、高度化することを自己投資の目的とすることが極めて合理的であり、かつ、重要である。
(3)フレームワークの共通言語化
フレームワークは、自分のための道具であると同時に、コミュニケーションの道具としての機能も高い。
「状況を構造化した者」と「状況を漠然と捉えている者」とのコミュニケーションは非効率的である。
また、フレームシンカー同士においては、双方の構造化の一致や差を確認する機会となり、それが、さらにフレームワークの使い方の上達につながる。
したがって、フレームワークは可能な限り共有し、その範囲を広げ共通言語化することが効果的である。
(4)効果最大化の視点
フレームワークは、フレームシンカーにとって有益な道具である。
ただし、道具である以上、それを上手に使う者と、そうでない者の差がある。
上述した、カスタマイズや、共通言語化は、その差が生じる典型であるが、もう一点追記しておく。
それは、「経営脳の5レイヤー」が、最優先であること。
自己投資の目的が、成長課題の解決である以上「課題の鮮明化」が重要である。
課題が不鮮明なまま、フレームワークを使っても、充分な効果が得られない。
その原因を他責思考でフレームワークに求めると、ますます状況は悪化してしまう。
上述した8つのフレームワークの中で、「経営脳の5レイヤー」以外は、状況に応じて適切なものを選択すればいい。
フレームシンカーとして進化するために、重要な視点である。
5節:まとめ
本章の要点を整理する。
第2部で示した成長の4段階プロセスの実践に有効な8つのフレームワークを提示した。
- フレームワークは、思考のための道具である。
- 「成長の余白」がある限り、道具を活用して、頭の使い方をより良くすることは、誰にでも可能である。
- フレームシンカーとなって、自分への投資効率を高める。
- その始点は「経営脳の5レイヤー」による課題の鮮明化である。
- 課題が不鮮明なまま、道具を使っても効果は限定的である。
- まず自己診断で課題を鮮明にし、その解決のために、フレームワークを仲間とともに「日常使い」する。
- この「日常の習慣」が、フレームシンカーとして経営者を進化させる。
次章では、自己投資を効果的に持続する仕組みとして、タイムマネジメントを論じる。
