第4章で示したように、メンタルは、経営脳の5レイヤーの第3層に位置する。
また同時に、特に影響が大きい8つの要素として、勇気・自信・冷静・集中・余裕・楽観・感謝・ストレスを示した。
本章では、これらの要素について、その仕組み、必要条件、限界、そして機能しない場合の経営リスクを整理する。
1節:本章の対象範囲
メンタルはデリケートなテーマである。
本論に入る前に、改めて本章で扱う範囲を明確にしておく。
本章は、日常的な精神状態の自己管理を対象としている。
深刻な不安、抑うつ、不眠などが継続している場合や、日常生活に支障をきたしている場合は、本章の対象範囲を超えている。
その場合は、医療機関や専門家への相談を優先していただきたい。
本章は、医学的な診断や治療を目的とするものではない。
2節:メンタルの構造
「メンタルを整える」
これでは抽象的すぎて、検証できない。
メンタルは、構成する個別要素に分けることで、自己認識と改善が容易になる。
本章では、メンタルを8つの要素、勇気・自信・冷静・集中・余裕・楽観・感謝・ストレス対処に分解する。
これらは、精神状態を観察し、課題を特定するための枠組みである。
最適化されていないメンタルは、これら8つの要素のいずれかに課題がある。
また、メンタルを整えるには、客観的な認知と癖の認知が前提となる。
自らの精神状態を正しく把握し、良い癖を考動の活性化に活かし、悪い癖による連鎖悪化を止める必要がある。
3節:メンタルを自己制御する目的
メンタルは常に変化する。
したがって、第4章で示した3つの視点「客観認知・癖の認知・自己操作」により、自ら制御する2つの目的認識が重要である。
- 第1に、良好な状態を意図的に創り出すこと。
自分の気分が高まる方法を複数把握しておき、必要な時に自分を盛り上げる目的。 - 第2に、悪化の兆候を早期に察知し、対処すること。
メンタルの悪化は、些細なきっかけから連鎖的に進行し、加速度的に精神状態を低下させるという特性がある。その悪化を早期に止める目的。
この2つの目的を正しく認識し、自分自身を客観的に観察し、常に適切な精神状態に保つことが欠かせない。
4節:8つの要素
メンタルに影響する8つの要素について、その機能と課題がある場合の経営リスクを整理する。
(1)勇気
勇気は「恐怖や不安があっても踏み出す力」である。
新しい挑戦や困難な決断において、経営者には勇気が欠かせない。
勇気に課題があると、次のような経営リスクとして顕在化する。
- 重要な決断を先延ばしにし、機会損失を招く。
- 問題のある社員への対処を避け、状況が悪化する。
- 批判や対案を恐れ、議論を避ける。
(2)自信
自信は「根拠に基づいた自己評価による推進力」である。
経営者の自信は、組織全体の推進力に影響する。
自信に課題があると、次のような経営リスクとして顕在化する。
- 明確な指示命令を下せず、周囲の考動が停滞する。
- 過信によりリスクを過小評価し、想定以上の損害を招くことがある。
- 優柔不断になったり、他者の意見に流されやすくなったりする。
(3)冷静
冷静は「感情に支配されず平静を保つ安定性」である。
精神的な負荷がかかる状態においても、常に冷静を保つことが重要である。
冷静に課題があると、次のような経営リスクとして顕在化する。
- 感情的な考動が、周囲に負の感情を抱かせる。
- 想定外の状況においてパニックに陥り、不適切な対応を取る。
- ハラスメントや威圧的なコミュニケーションにつながるリスクがある。
(4)集中
集中は「焦点を明確にし没頭する力」である。
保有能力を十二分に発揮し、期待する成果に繋ぐために欠かせない。
集中に課題があると、次のような経営リスクとして顕在化する。
- 能力が分散することで、未処理や未解決が蓄積する。
- 散漫な意識は優先順位付けに支障をきたす。
- 取捨選択ができず、自分のみならず周囲の能力も無駄遣いする。
(5)余裕
余裕は「心理的な空間を確保し、複雑な状況で柔軟に考動する力」である。
精神的余裕は、思考の広さや深さを拡大し、考動の正確性を高める。
余裕に課題があると、次のような経営リスクとして顕在化する。
- 思考が浅く、狭くなり、決断が困難になる。
- 中長期視点を失い、その場しのぎの考動が多くなる。
- 余裕のなさが周囲との心理的距離を広げていく。
(6)楽観
楽観は「望ましい結果を信じ、不安を不要に膨らませない力」である。
楽観的なリーダーは、自分自身のみならず周囲の考動も活性化する。
楽観に課題があると、次のような経営リスクとして顕在化する。
- 悲観的な考動によって周囲をネガティブにし、組織の士気を低下させ、機会を失っていく。
- 過剰な楽観はリスクを過小評価し、対応を怠ることで想定外の損失を招く。
- 最悪の事態を想定しすぎ、必要以上の資源を費やす。
(7)感謝
感謝は「他者の貢献を認識し、関係を強化する力」である。
好意や善意を敏感に感じ取ることで、周囲との良好な関係を維持する。
感謝に課題があると、次のような経営リスクとして顕在化する。
- 従業員や取引先を正当に評価せず、負の感情が蓄積する。
- 相手の好意や善意に鈍感となり、協力や応援が減っていく。
- 周囲との関係悪化により孤立していく。
(8)ストレス管理
ストレス管理は「心理的刺激への対応力」である。
良い刺激を成長に転換し、悪い刺激を遮断するために欠かせない。
ストレス管理に課題があると、次のような経営リスクとして顕在化する。
- 刺激を良い方に転換できず、メンタルを悪化させてしまう。
- 刺激を制御できず、不安定な考動が増える。
- 悪いストレスの原因解消を放置したまま、一時的な解消考動を取る、あるいは逃避する。
5節:他のレイヤーとの相互作用
メンタルは、経営脳全体の精神的基盤として機能すると同時に、他のレイヤーからも影響を受ける。
マインドセットが整っていると、メンタルも安定しやすい。
また、フィジカルが良好であると、メンタルの強度も高まる。
さらに、スキルやセンスから得た3Gの人々への成果によって、メンタルは強化される。
一方で、マインドセットが揺らぐと、メンタルも不安定になる。
また、フィジカルに課題があると、メンタルの強度は急激に低下する。
さらに、3Gの人々への成果が現れないとき、メンタルは脆弱化する。
特に、メンタルの不調は、マインドセットの倫理観の強度を低下させ、結果として経営の原理原則から逸脱を促す逆流リスクをはらむ。
したがって、経営脳を整えるには、この相互作用を理解し、いずれかのレイヤーに偏ることなく、同時進行で取り組むことが重要である。
6節:まとめ
本章では、メンタルを構成する8要素の構造と機能を整理した。
- メンタルは、8つの要素(勇気・自信・冷静・集中・余裕・楽観・感謝・ストレス対処)に分解できる。これらは、精神状態を観察し、課題を特定するための枠組みである。
- メンタルを整えるには、客観的な認知と癖の認知が前提となる。良い癖を考動の活性化に活かし、悪い癖による連鎖悪化を止める必要がある。
- メンタルの制御には2つの視点がある。第一に、良好な状態を意図的に創り出すこと。第二に、悪化の兆候を早期に察知し対処すること。
- 各要素に課題があると、具体的な経営リスクとして顕在化する。
- メンタルは、他のレイヤー(マインドセット・フィジカル・スキル・センス)と相互作用する。特に、メンタルの不調は、マインドセットの倫理観の強度を一時的に低下させる逆流リスクがある。
- 経営脳を整えるには、いずれかのレイヤーに偏ることなく、同時進行で取り組むことが重要である。
次章では、スキルの構造を整理する。
