本章では、第1章で提示した経営脳の5レイヤーのうち、第2層に位置する「Layer2:フィジカル」について整理を行う。
以下、経営者が自らの身体のコンディションを良好に保つ実務的意義と、その最適化の方向性を示す。
1節:フィジカルの定義と特性
フィジカルは、経営者の考動を支える身体的基盤である。
身体のコンディションは、経営者の考動の質と持続性を直接的に左右する。
フィジカルの管理には、次の3つの視点が必要である。
- 持続性:良好なコンディションを安定的に維持するための視点
- 回復性:不調時に迅速にコンディションを取り戻すための視点
- 予防性:リスクを事前に察知し、未然に対応するための視点
これら3視点を総合的に機能させることで、経営者は持続的かつ安定的に高いパフォーマンスを維持できる。
2節:経営脳における位置づけ
経営脳において、フィジカルはLayer2に位置し、次の3つの構造的特徴を持つ。
(1)基盤依存性
フィジカル管理の目的と方向は、Layer1:マインドセットの状態に依存する。
経営の原理原則を実現するための身体管理であるとの目的認識が大前提となる。
マインドセットが整った経営者は、健康管理は経営責任であると心得ている。
もし、マインドセットに課題があれば、身体管理の目的は経営とは切り離され、単なる健康志向や自己満足に陥る。
(2)支援性
フィジカルは、メンタル・スキル・センスといった上位レイヤーの活動を支える基盤である。
身体コンディションが良好であれば、安定した精神状態とともに、スキル・センスを支援する。
反対に、身体不調は、精神コンディション、保有スキルの発揮力、感知力といった上位機能の不全を引き起こす。
(3)相互影響性
経営脳の他のレイヤーと同様、フィジカルも相互作用する。
身体コンディションが良好であれば、マインドセットの正しさは保護され、メンタルは安定し、保有スキルは充分発揮され、センスも鋭敏化する。
逆に、身体の不調は他のレイヤーのパフォーマンスを一斉に低下させる。
3節:組織への影響
第2部で示したように、オーナー型中小企業においては、経営者と3Gの距離が近い構造を持つ。
この構造的特性により、経営者のフィジカルは、良否に関わりなく直接的に組織に影響を及ぼす。
経営者は、自らの影響の大きさを自覚する必要がある。
(1)結果への即時反映
経営者の身体不良は、経営の結果に与える影響が相対的に大きい。
特に、代替的人材が限られる中小企業では、経営者の身体的リスクが事業継続性に直結する。
身体不良による考動の停滞が、組織そのものを停止させる場合すらある。
(2)標準値への影響
物理的・心理的距離が近いため、経営者の生活リズムや健康習慣は、従業員に観察学習され、無意識の模倣対象となる。
その結果、経営者の身体コンディション水準が、組織の標準値として共有され、定着しやすい。
いわゆる「普通の状態」は組織によって差があるが、その最も大きな要因は、その組織のリーダーのフィジカル水準である。
(3)無意識的強要
経営者が身体不良時に示す考動は、周囲にとって「暗黙の規範」となることがある。
身体管理を軽視して無理する無責任な考動を周囲は「当社の当然」と誤認し、過度な負荷を無意識に強制し合う企業風土となることがある。
経営者の誤った考動が、組織の健全性を損なう「無意識的強要」にならないように注意する必要がある。
(4)自責文化の醸成
経営者が自らの身体を自責思考で管理し、万全なコンディションを維持する姿勢は、組織の自己管理意識を強化する。
その結果、各人が自らの身体管理を自分事として捉える企業文化が醸成される。
4節:フィジカルの8要素
経営の原理原則を実現するためのフィジカル管理において、特に影響力が大きいと考えられる8つの要素を提示する。
これらについて、自分にとっての最適解を正しく把握し、能動的に管理することが重要である。
- 食事:何を・いつ・どれだけ食べるか。栄養バランスと時間管理の最適化
- 睡眠:最適な時間帯・長さ・環境を把握し、睡眠の質の最適化
- 運動:身体機能を維持し、考動を支えるための活動
- 休息:疲労の性質を理解し、効果的な回復方法と限界値の把握
- 環境:温度・湿度・音・光・匂いなどの外的要因の最適化
- 診断:専門家の診察や検査により、潜在リスクを早期に察知
- 習慣:日常の健康管理を最小限の意識で実践
- 節制:飲酒・喫煙・娯楽などの適正値の把握
これら8要素は選択ではなく、可能な限り網羅的に取り組むことで効果が得られる。
また、その相互作用には、機能が高まる正の作用と、崩れていく負の作用の両面がある。
- 正の作用:各要素が他を促進し、全体の状態を強化する
- 負の作用:一要素の課題が他に波及し、全体を劣化させる
5節:まとめ
本章では、経営脳の第2層に位置するLayer2:フィジカルを整理した。
- フィジカルは、経営者の考動を支える身体的基盤である。
- フィジカルに特に影響が大きいと考えられる8つの要素は、食事・睡眠・運動・休息・環境・診断・習慣・節制であり、これらは可能な限り網羅的に取り組むことが重要である。
- 各要素は相互に作用し、正の循環で全体が強化され、負の連鎖で全体が劣化する。
- フィジカルの状態は、経営者の考動の質と持続性を直接的に左右し、成功確率に即時的な影響を及ぼす。
- フィジカル管理には、持続性・回復性・予防性という3つの視点が必要である。
- フィジカルの目的と方向は、Layer1:マインドセットの状態に依存する。
- フィジカルは、メンタル・スキル・センスといった上位レイヤーを支える基盤である。
- フィジカルの不調は他のレイヤーを一斉に低下させる。
- 経営者のフィジカルが組織の自責文化の形成、事業継続性の確保など、経営基盤に決定的な影響を及ぼす。
次章では、Layer3:メンタルを考察する。
