第6章で示したように、センスは、経営脳の5レイヤーの最上層に位置する。
また同時に、特に影響が大きい8つの要素として、好奇心・移入力・観察力・緻密力・比較力・発想力・構成力・執着力を示した。
本章では、センスを構成する8つの要素について、その機能、相互作用のメカニズム、そして機能しない場合の経営への影響を整理する。
1節:センスの構造
「センスを磨く」
これでは抽象的すぎて、具体的な考動に移すことができない。
本稿では、第6章でも示したように、特に大きく影響すると思われる複数の要素に分解した。
それは、好奇心・移入力・観察力・緻密力・比較力・発想力・構成力・執着力の8つである。
センスは、このように個別要素に分けることで、自己認識と改善が容易になる。
ただし、これらの8要素が個別に作用するのではない。
それぞれが状況に応じて相互に作用し、経営課題や状況によって発現する。
2節:センスが影響する領域
スキルレベルが同じでも、センスが異なれば、結果に差が生じる。
センスは、デザインを主とするプレゼンテーションの領域などで語られることが多い。
しかし、経営視点で観察すると、事業活動におけるあらゆる領域で、その成果に影響している。
各領域において、センスが影響する要素を例示すると次のようになる。
- 戦略策定のセンス:差別化戦略・市場選択・顧客選択・ヒトモノカネ配分
- 商品やサービス企画のセンス:顧客ニーズの把握・機能設計・デザイン・価格設定・提供方法
- 販売方法のセンス:営業スタイル・広告や販売促進・販売拠点展開・代理店網構築
- 生産や製造のセンス:工程設計・品質管理・製造プロセス・自動化や標準化・技法や技能の伝承
- 採用のセンス:採用広告・採用媒体・タイミング・面接・採用基準
- 育成のセンス:育成カリキュラム・評価の仕組み・成長支援体制・企業文化
- 組織設計のセンス:役職者配置・指示命令系統・組織ガバナンス・意思決定プロセス
- 管理のセンス:経営計画の運用・会計手法・会議スタイル・状況把握と評価
これらは、例示に過ぎない。
センスは、あらゆる領域において価値拡大のために重要な役割を担うレイヤーである。
3節:センスの8要素
センスを構成する8つの要素について、その機能と不足時の影響を整理する。
(1)好奇心
好奇心は「差や違いに対して積極的に興味や関心を向ける力」である。
視野や視点を拡大拡張するために欠かせない。
好奇心が不足していると、次のような課題に影響する。
- 情報のアップデートが停滞する
- 考動の選択肢が、過去の経験や既存知識の範囲に限られる。
- 他分野の知見や異文化への理解が深まらない。
(2)移入力
移入力は「他者の好き嫌いの評価軸を正確に感じ取る力」である。
特に、3Gの人々の感覚、感情、ニーズを正しく感知するために必要となる。
移入力が不足していると、次のような課題に影響する。
- 商品やサービスが顧客ニーズとズレる
- 待遇や福利厚生の施策が従業員ニーズとズレる
- 3Gの持続的な幸福が何かを感知できず、貢献策を具体化できない。
(3)観察力
観察力は「対象の実態や変化を客観的かつ解像度高く捉える力」である。
意識しなければ見逃してしまうような環境や事象の微細な変化を、事実として見抜くために必要となる。
観察力が不足していると、次のような課題に影響する。
- 実は差や違いがあるのに「同じ」に見えてしまう
- 表面的な現象に惑わされ、拙速な価値判断をしてしまう。
- 大きな現象となって現れるまで、変化に気付かない。
(4)緻密力
緻密力は「対象の細部にまでこだわる意識的な力」である。
多くの人は気付かない、関心を持たないと思われるような微細な部分であっても、差を創出しようとする。
緻密力が不足していると、次のような課題に影響する。
- 表面的な理解で満足し、細部や背景を見落とす
- 無自覚に少数派のニーズを軽視してしまう
- 低いレベルで完成・完了と判断してしまう
(5)比較力
比較力は「複数の対象を比較し、その違いを具体的に抽出する力」である。
感覚的に感じた差を、具体的に特定するために必要となる。
比較力が不足していると、次のような課題に影響する。
- 他と比較することなく、最適解と判断してしまう
- 差や違いの事例が少なく、経験値が蓄積されない
- 比較する対象を適切に選択できない
(6)発想力
発想力は「新しいアイデアや独自の視点を生み出す力」である。
新規性を偶然に頼ることなく、意識的に創造するために必要となる。
発想力が不足していると、次のような課題に影響する。
- 特に大きな課題がない限り、より良くしようという積極性が生まれない
- 独自性より模倣性が強い考動習慣となる
- 成功確率を高めるためのトライ数が乏しい
(7)構成力
構成力は「感知した複数の差や違いを組合せて、より高い価値に変換する力」である。
新たな価値を創造するために必要となる。
構成力が不足していると、次のような課題に影響する。
- 個別最適に留まり、機会損失が発生しやすい
- 組み合わせを誤り、その結果、個別要素の価値も消してしまう
- 静的価値をストーリーと組み合わせた動的価値に変換できない
(8)執着力
執着力は「安易な妥協をせず、求めている解に至る力」である。
より競争力のある価値に高めるために欠かせない。
執着力が不足していると、次のような課題に影響する。
- より高い価値を求めなくなる
- 価値競争ができず、価格競争に巻き込まれやすい
- 妥協することが多く、それまでの投資を回収できなくなる
4節:要素間の相互作用
センスの8要素は状況に応じて相互に連動しながら作用する。
たとえば、差別化戦略を構想する場合:
- 好奇心が市場の変化に関心を向け
- 移入力が顧客の潜在ニーズを感じ取り
- 観察力が競合との違いを捉え
- 比較力が自社の強みを特定し
- 発想力が新しい切り口を生み出し
- 構成力が複数の価値を効果的に組み合わせ
- 執着力が完成度を高める
このように、センスは8要素が相互作用することでより高い効果を発揮する。
つまり、より多くの要素を整えることで相乗効果はより高くなる構造である。
5節:他のレイヤーとの相互作用
センスは、経営脳の最上層として機能すると同時に、他のレイヤーからも影響を受ける。
マインドセットが整っていると、3Gへの貢献のためにセンスは機能する。
また、メンタルが良好であると、センスの感度は高まる。
さらに、整ったスキルが多いほど、センスの発揮場面は増える。
一方で、マインドセットが揺らぐと、センスは誤った方向に働く。
また、メンタルに課題があると、センスの感度は鈍化する。
さらに、スキルが不足すると、センスで感知した価値を実現できない。
したがって、経営脳を整えるには、この相互作用を理解し、いずれかのレイヤーに偏ることなく、同時進行で取り組むことが重要である。
6節:まとめ
本章では、センスを構成する要素の構造と機能を整理した。
- センスを構成する主な要素は、好奇心・移入力・観察力・緻密力・比較力・発想力・構成力・執着力の8つである。
- センスの8要素は状況に応じて相互に連動しながら作用する。より多くの要素を整えることで相乗効果はより高くなる。
- センスは、戦略策定・商品やサービス企画・販売方法・生産や製造・採用・育成・組織設計・管理など、事業活動のあらゆる領域で成果に影響する。
- 各要素の不足が生む影響を理解することで、経営者は自らのセンスを点検し、どの要素に課題があるかを明確にできる。
- センスは、他のレイヤー(マインドセット・メンタル・スキル)と相互作用する。経営脳を整えるには、いずれかのレイヤーに偏ることなく、同時進行で取り組むことが重要である。
