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3部-手段編|10章|経営実務スキルの8要素

2026 1/03
2025年11月9日2026年1月3日
堀井弘三

第5章では、スキルをLv1-前提スキル、Lv2-部品スキル、Lv3-複合スキルの3レベルに分類した。

また、Lv2-部品スキルは、基礎スキルと実務スキルに2分した。

前章では、すべてのビジネスパーソンに共通する基礎スキル8要素を整理した。

本章では、中小企業経営に特有の実務スキルの中でも特に重要な8要素を経営実務スキルとして、その機能、基礎スキルとの依存関係、相互作用のメカニズムを明らかにする。

経営実務スキルは、基礎スキルを前提として機能し、その習得度が経営者としての考動の質と最終的な成果を左右する。

INDEX

1節:基礎スキルを基盤とする経営実務スキル

(1)基礎スキルと経営実務スキルの関係

経営実務スキルは、基礎スキルを基盤として機能する。

第9章で整理した基礎スキル8要素が整っているほど、経営実務スキルはより高度に機能する。

基礎スキルと経営実務スキルは、スキル構造における位置づけが異なる。

・基礎スキル:ビジネスパーソン共通のLv2-部品スキル

・経営実務スキル:中小企業経営者に特有のLv2-部品スキル

両者は同じLv2-部品スキルに位置するが、基礎スキルが基盤となり、その上に経営実務スキルが構築される。

(2)経営実務スキルの特性

基礎スキルがすべてのビジネスパーソンに共通するのに対し、経営実務スキルは中小企業経営者に特有の機能である。

経営判断、理念創造、戦略構想、組織統率といった経営者固有の役割を実現するためのスキルであり、以下のような特性がある。

基盤依存性

基礎スキルが整っているほど、経営実務スキルはより高度に機能する。

たとえば:

  • 戦略構想力は、論理的思考力と深広思考力が整っているほど、戦略の質が向上する
  • 会計力は、論理的思考力が整っているほど、数値の意味を深く読み取れる
  • 伝達力は、コミュニケーション力が整っているほど、理念や戦略は効果的に浸透する

反対に、経営知識が豊富であっても、基礎スキルに課題がある場合、知識を実務上の成果に結びつけることが困難となる。

経営書を読み、セミナーに参加するなどしても効果を得にくい本質的な原因は、この基盤依存性が原因であることが多い。

つまり、基礎スキルの習得が不足しているためである。

相互強化性

経営実務スキルの向上は、基礎スキルの質的向上を促進する相互強化性がある。

たとえば:

  • 会計力を高める過程で、財務数値の因果関係を分析する訓練が論理的思考力を強化する
  • 戦略構想力を磨く過程で、本質的な選択を見極める訓練が深広思考力を深化させる
  • 組成力を実践する過程で、メンバーとの対話がコミュニケーション力を向上させる

この相互強化により、全体の考動力が向上する正の循環が形成される。

2節:経営実務スキル8要素の詳細

経営実務スキル8要素について、詳細な定義と能力不足時の影響を整理する。

(1)先見力

先見力とは、将来の環境変化を見極め、先回りして考動する力である。

変化の兆候を察知し、機会を捉え、脅威を回避する。

先見力が不足していると、下記のような現象となって現れる。

  • 環境変化への対応が後手に回る
  • 将来の危機や脅威に気づかず損失が顕在化する
  • 将来の変化を見誤り、リスクを拡大させる
  • 中長期的視野を持たない短期志向、目先志向の企業風土となる

また、基礎スキルの支援機能として下記のような例が考えられる。

  • 課題発見力:将来のあるべき姿から逆算した現在の課題を早期にかつ正確に察知できる
  • 深広思考力:表面的なトレンドに惑わされることなく、背後にある本質的変化を見抜くことができる
  • 管理力:この先のチャンスとリスクを事前に評価し、対応策を計画に組み込むことができる

(2)理念創造力

理念創造力とは、企業の価値観を言語化する力である。

自社の存在意義と事業目的を共有可能な言葉に変換する。

理念創造力が不足していると、下記のような現象となって現れる。

  • 理念の魅力が乏しく、共感が得られない
  • 収益や利益を目的化してしまう
  • 一体感が欠如し、チームのパフォーマンスが低い
  • 理念なき経営に違和感を感じない企業風土となる

また、基礎スキルの支援機能として下記のような例が考えられる。

  • 論理的思考力:目的(理念)と手段(戦略)が矛盾なく接続できる
  • 深広思考力:価値の本質を表現できる
  • リーダー力:共感を呼ぶ魅力的な言葉で牽引できる

(3)戦略構想力

戦略構想力とは、理念実現のための方法論を立案する力である。

理念実現のための道筋を論理的に描き明確にする。

戦略構想力が不足していると、下記のような現象となって現れる。

  • 理念実現の道筋が見えない
  • 戦略とリソースが乖離し「絵に描いた餅」になりやすい
  • 競争優位性を言語化できない
  • 戦略なき場当たり経営が常態化する企業風土となる

また、基礎スキルの支援機能として下記のような例が考えられる。

  • 論理的思考力:計画が論理的に整合し、客観的な根拠に基づいて構築できる
  • 計画達成力:計画の3要素(ゴール・シナリオ・キャスティング)が手段として明確にできる
  • 仕組み化力:戦略を実行可能な仕組みに落とし込める

(4)組成力

組成力とは、複数の要素を効果的に組み立てる力である。

経営においては、理念実現・戦略遂行のためにチームを最適化する力として発揮される。

組成力が不足していると、下記のような現象となって現れる。

  • 従業員が成長する環境が作れない
  • 従業員同士の連携が悪い
  • 理念や戦略に基づいた人材配置・育成が行われず、結果として形骸化する
  • 相互信頼や協力を軽視する企業風土となる

また、基礎スキルの支援機能として下記のような例が考えられる。

  • 計画達成力:計画遂行のための規律ある考動を組織に定着させることができる
  • 仕組み化力:戦略実行のための合理的な指示命令系統や業務フローを設計、運用できる
  • リーダー力:理念と戦略で共感を生みチームを牽引できる

(5)戦略実現力

戦略実現力とは、チームを動かして戦略を実現する力である。

メンバーの共感を得て、進捗を管理し、パフォーマンス発揮を支援する。

戦略実現力が不足していると、下記のような現象となって現れる。

  • 戦略に沿った実行ができない
  • 進捗管理が甘く、軌道修正が遅れる
  • リソース(人材・資金など)の最適配分ができず、プロジェクトの効率が低下する
  • 戦略がチームに浸透せず、無関心な企業風土となる

また、基礎スキルの支援機能として下記のような例が考えられる。

  • 計画達成力:正しい計画と正しい考動のマネジメントによって成功確率を高めることができる
  • 課題発見力:実行過程で発生する問題(乖離)を早期に特定・言語化し、軌道修正に活かせる
  • リーダー力:チームの力を束ね、プロジェクトリーダーとして牽引できる

(6)伝達力

伝達力とは、理念・戦略・計画等の真意を伝え、浸透させる力である。

単なる情報発信ではなく、相手を「理解→納得→共感→実行」に導く。

伝達力が不足していると、下記のような現象となって現れる。

  • 理念や戦略が組織に正しく伝わらず誤解が生じたり、形骸化する
  • 誤解によって、組織が意図しない方向に進む
  • 伝わらないことから生じる不都合を他責にすることが多くなる
  • 経営者の真意に対する組織的な関心が薄い企業風土となる

また、基礎スキルの支援機能として下記のような例が考えられる。

  • コミュニケーション力:正しくタイムリーに、適切な手段を用いて伝達することができる
  • 論理的思考力:理路整然と整理して伝達することができる
  • 仕組み化力:伝達した内容が希薄化しないように、対策を仕組み化できる

(7)会計力

会計力とは、現在・過去・未来を会計情報で理解する力である。

数字の行間を読み、その因果を言語化することで経営課題を数値化できる。

会計力が不足していると、下記のような現象となって現れる。

  • 経営実態を正しく把握できない
  • 因果の誤解によって対策を誤る
  • 数値目標に根拠や説得力がない
  • 会計情報を軽視する企業風土となる

また、基礎スキルの支援機能として下記のような例が考えられる。

  • 論理的思考力:数値間の因果を読み解くことができる
  • 課題発見力:数値から、現状とあるべき姿とのギャップを特定し、改善すべき課題を抽出できる
  • 管理力:財務リスクを想定し、事前に制御できる

(8)情報力

情報力とは、適切な考動のために情報を取捨選択・活用する力である。

膨大な情報から本質的なものを見極め、経営判断に活かす。

情報力が不足していると、下記のような現象となって現れる。

  • 重要情報を見極められない
  • 情報を正しく解釈できない
  • 誤情報に基づいて考動してしまう
  • 情報を軽視し、情報に基づかない考動が常態化する企業風土となる

また、基礎スキルの支援機能として下記のような例が考えられる。

  • 深広思考力:情報の裏の本質を深読みできる
  • 論理的思考力:現象と原因の因果関係を、確かな情報で構造化できる
  • 管理力:チャンスやリスクの想定精度を高めることができる

3節:経営実務スキルから発現する複合スキル

第5章で示したように、Lv3-複合スキルはLv2-部品スキルの組み合わせによって発現する。

本節では、経営実務スキルと基礎スキルの統合によって発現する経営者特有のLv3-複合スキルについて整理する。

(1)経営者特有のLv3-複合スキル

主なLv3-複合スキルについて、その経営実務スキルと基礎スキルの組み合わせ例を示す。

  • 経営分析力=(基礎:深広思考力+論理的思考力)+(実務:会計力+情報力)
  • 事業創造力=(基礎:課題発見力+深広思考力)+(実務:戦略構想力+先見力)
  • 人材育成力=(基礎:課題発見力+管理力)+(実務:伝達力+組成力)
  • 組織統率力=(基礎:リーダー力+仕組み化力)+(実務:伝達力+組成力)
  • 関係構築力=(基礎:コミュニケーション力+リーダー力)+(実務:理念創造力+伝達力)
  • 予算立案力=(基礎:計画達成力+管理力)+(実務:戦略実現力+会計力)
  • 危機対応力=(基礎:課題発見力+管理力)+(実務:先見力+情報力)
  • 自己革新力=(基礎:課題発見力+深広思考力)+(実務:理念創造力+戦略構想力)

これらは、基礎スキルのみの統合よりも高度な複合機能であり、経営能力の高度化に欠かせない視点である。

(2)個別機能の組み合わせ構造の意義

Lv3-複合スキルを個別のLv2-部品スキルに分解して捉えることには、重要な意義がある。

たとえば、「人材育成力(複合スキル)を高めたい」と考える場合。

  • 人材育成という言葉から連想する「教え方」に偏る
  • 対象者固有の課題を明らかにせず一律に「詰め込み」をしてしまう

このような誤った考動により、育成効果が得られず解決に至らないことが多い。

しかし、(1)で示したように、構成する4つの部品スキルを個別に整えることで、結果として人材育成力が向上する。

  • 課題発見力:育成対象者のあるべき姿から、成長課題を明確に言語化できる
  • 管理力:育成対象者に関わる今後のチャンスやリスクを想定した育成プランを策定できる
  • 伝達力:理念実現や戦略遂行のための成長であることを育成対象者に伝えることができる
  • 組成力:適切な配置と育成機会を通じて、チームの一員としての自覚を促せる

同様に、組織統率力、事業創造力、危機対応力など、あらゆる経営者特有のLv3-複合スキルは、基礎スキルと経営実務スキルの組み合わせに分解できる。

高めたいLv3-複合スキルを構成するLv2-部品スキルを個別に整えることが、経営者としての考動の質を高める実践的な方法である。

4節:まとめ

本章では、経営実務スキルの構造と機能を整理した。

  • スキルは以下の3つのレベルで整理される。
    • Lv1:前提スキル
    • Lv2:部品スキル
      • 基礎スキル8要素(第9章)
      • 経営実務スキル8要素(本章)
    • Lv3:複合スキル
  • 経営実務スキルは、中小企業経営者に特有のLv2-部品スキルである。
  • 経営実務スキルは、基礎スキルを基盤として機能する。基礎スキルが整っているほど、経営実務スキルはより高度に機能する(基盤依存性)。
  • 逆に、経営実務スキルの向上は、基礎スキルの質的向上を促進する(相互強化性)。
  • 本章では、経営実務スキルの中でも特に重要な8要素(先見力・理念創造力・戦略構想力・組成力・戦略実現力・伝達力・会計力・情報力)を整理した。
  • 各経営実務スキルは、複数の基礎スキルと相互作用する。
  • Lv3-複合スキルは、基礎スキルと経営実務スキルの組み合わせによって発現する。高めたいLv3-複合スキルを構成する部品スキルを個別に整えることが、経営者としての考動の質を高める実践的な方法である。

本章で、経営脳の5レイヤーのうち、レイヤー4に位置するスキルの層を整理した。

次章では、センスの構造を整理する。

【中小企業経営者論】もくじ

1部:前提編
  • 1部-前提編|1章|中小企業の特性と経営者論への帰結
  • 1部-前提編|2章|確率マネジメントの概念
  • 1部-前提編|3章|経営者の成長プロセス
2部:目的編
  • 2部-目的編|1章|経営の原理原則
  • 2部-目的編|2章|幸福の構造
  • 2部-目的編|3章|3Gマネジメント
3部:手段編
  • 3部-手段編|1章|経営脳の全体構造
  • 3部-手段編|2章|マインドセット
  • 3部-手段編|3章|フィジカル
  • 3部-手段編|4章|メンタル
  • 3部-手段編|5章|スキル
  • 3部-手段編|6章|センス
  • 3部-手段編|7章|マインドセットの8要素
  • 3部-手段編|8章|メンタルの8要素
  • 3部-手段編|9章|基礎スキルの8要素
  • 3部-手段編|10章|経営実務スキルの8要素
  • 3部-手段編|11章|センスの8要素
4部:実践編
  • 4部-実践編|1章|成長の本質論理
  • 4部-実践編|2章|成長の前提、自責思考
  • 4部-実践編|3章|自己投資の実践ロジック
  • 4部-実践編|4章|時間戦略の論理
3部-手段編
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この記事を書いた人

堀井弘三のアバター 堀井弘三

「もっといい会社」にするためには「もっといい経営者」になればええねん!が口ぐせ。
「経営脳:5つのレイヤー」で体系化した独自のマネジメントメソッドで、10名~200名規模の中小企業経営者を「リセット・コーチング」。
専門は「36カ月の経営計画」「管理会計」「チームビルディング・人事評価・業績連動型賞与制度」。
1999年に創業した自身の税理士事務所を2022年に事業承継し、現在はコーチ専業。
このサイト「Re!」はライフワーク。
「経営者のための思考のインフラ」としてお役に立てるように日々更新。

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