第1章で、経営の原理原則を「関わる人々の持続的な幸福を目的とする」と定義した。
しかし、「幸福」とは何か。
幸福を定義しなければ、原理原則は、ただの抽象的な概念で留まってしまう。
「幸福」の定義は難しい。
幸福は主観的で多様であり、外部から一律に定義できるものではないからである。
本章では、幸福を前提条件、二層構造、持続のメカニズムとして整理することを試みる。
この構造の解像度を高めることで、経営の原理原則は、より現実的な判断軸として機能できる。
1節:幸福の主観性と多様性
幸福は、外部が定義、評価するものではなく、各人が自らの価値観を反映する主観的な状態である。
本稿では、その人が心に抱く意思や意図を「想意(おもい)」と表現する。
幸福とは、自らの想意に沿っている状態である。
同じ状況でも、ある人は幸福を感じ、別の人は不満を抱く。
安定を求める人もいれば、挑戦を通じて幸福を拡張する人もいる。
達成を重視する人もいれば、関係性や貢献に幸福を見出す人もいる。
幸福を理解するには、まず自分にとっての幸福を自覚的に定義する必要がある。
同時に、他者の幸福は自分とは異なる価値観に基づくことを認識しなければならない。
この多様性を理解することが、関わる人々の幸福を守り、高める考動の出発点となる。
2節:幸福の特性
幸福の構造を論じるには、その特性の理解が前提となる。
関わる人々の持続的な幸福に関与する経営者には、この特性の理解と共感が欠かせない。
(1)想意と成長
幸福は与えられるものではなく、自らの考動によって実現するものである。
想意の強さが、そのための成長意欲を強くする。
成長は義務ではなく、想意に基づくからこそ、そのための考動は持続する。
想意は成長意欲となり、考動となって現れ、その結果として幸福確率が高まるという構造である。
(2)変化の認識と更新
人の幸福感は変化する。 外的環境や価値観、さらに身体状況など、時の経過と共に想意が変化するからである。
この変化によって、昨日まで感じていた幸福が消滅することもある。
そのとき、人は、また別の新しい幸福を求め始める。
新しい幸福を実現するためには、次の条件を整え、自己を更新する必要がある。
3節:幸福の二層構造
本稿でいう幸福は一過性の感情ではなく、その実感が持続している状態を指す。
それは次の二層で成り立ち、幸福を構造的に理解する視点を提供する。
(1)最低幸福(不幸の不在)
不安・恐れ・焦燥などの負の要素が抑えられ、「問題がない」「安心できる」と感じる状態。
基盤的な安心感が保たれている。
(2)充足幸福(幸福の拡張)
達成感・満足感・貢献感などの正の要素が高まっている状態。
自らの欲や希望の実現に伴い、積極的な幸福感を実感している。
4節:幸福の優先順位と安定性
持続的な幸福のためには、まず最低幸福を得る必要がある。
根底にある負の要素を放置したまま充足幸福による高揚感で覆っても、幸福は長続きしない。
むしろ、最低幸福を阻害する課題を先送りすることで益々悪化させる。
それを隠そうと、さらに高揚感が期待できる充足幸福を探し続けるという悪循環に陥ることさえある。
安心の基盤が安定して初めて、真の充足幸福が成立する。
最低幸福を軽視し、充足幸福を優先する経営は、一時しのぎに過ぎない。
この優先順位を理解することが、持続的幸福の確率を高める重要な視点のひとつである。
5節:幸福と成長のメカニズム
充分な幸福の実感が得られないとき、それを解決する方法は成長である。
関わる人々の幸福が持続できていないとき、それを解決する方法も成長である。
つまり、目的たる幸福を得るための手段が成長に他ならない。
前節で示したように、幸福は最低幸福と充足幸福の二層構造である。
最低幸福が満たされ、充足幸福が不足しているのであれば、そのための成長課題を解決する。
最低幸福が満たされていないのであれば、まずそのための成長課題を解決する。
最低幸福は、充足幸福に優先する。
したがって、成長も「最低幸福を満たすための課題解決」を優先することが合理的である。
つまり、成長の優先順位決定は、幸福の課題が判断軸となる。
6節:持続的幸福のメカニズム
本稿では、単なる幸福ではなく、持続的な幸福を強調している。
経営の原理原則が示す「道理」は、一時的な幸福、瞬間的な感情を目的としていない。
幸福な状態が可能な限り持続することを目的としている。
多くの場合、幸福感は、さらなる意欲や希望の動機となり、次の幸福への「攻めの想意」を高める。
同時に、現在の幸福を失いたくないという感情は「守りの想意」の理由ともなる。
この「攻めの想意」と「守りの想意」が、「持続の想意」となり循環する構造である。
7節:まとめ
本章は、経営の原理原則である「持続的な幸福」の構造を整理した。
- 幸福は、各人の価値観に基づく主観的で多様な状態である。
- 本稿では、心に抱く意思や意図を「想意(おもい)」と表現する。
- 幸福とは、自らの想意に沿っている状態である。
- 想意の強さが成長意欲と考動を持続させる。
- 幸福は持続する状態を指し、最低幸福と充足幸福という二層構造を持つ。
- 持続的な幸福のためには、最低幸福を充足幸福に優先する必要がある。
- 目的たる幸福を得るための手段が成長である。
- 成長課題の解決は、最低幸福を満たすための課題を優先することが合理的である。
- 幸福感は、次の幸福への「攻めの想意」と、現在の幸福を守りたい「守りの想意」を生み出す。
- 「幸福と想意」の善循環こそが、関わる人々の幸福を持続させるメカニズムとなる。
次章では、この幸福を実現すべき「関わる人々」を3つのグループに分類し、「3Gマネジメント」を提示する。
