第1章では、オーナー型中小企業において、経営者の考動が企業成果と密接に連動する構造を整理した。
第2章では、その考動の質を高めるための視点として、「確率マネジメント」という概念を提示した。
本章では、その確率マネジメントを実践する主体である経営者自身の成長プロセスに焦点を当てる。
経営者が考動の質を高め、成長していくための内面的・構造的な段階を整理する。
1節:段階1ー人生目的の明確化
経営者の成長の第1段階は、「人生観」を整理し、人生のグランドデザイン、つまり「人生目的」を明確にすることから始める。
なぜなら、それが「成長の目的」となるからである。
人生目的のための手段が成長である。
この理解ができれば、考動の軸はぶれにくくなる。
ただし、ここで重要なのは、その目的の起点が「義務」なのか「欲求」なのかを見極めることである。
義務的な目的は一時的な推進力にはなるが、長くは続かない。
もし、心の奥では別の欲求を抱えているとすれば、その本音と義務感の乖離が心理的な負担となり、やがて悪性のストレスを生む。
それが続けば、幸福な人生を諦めることさえある。
本音の欲求に基づく目的は、持続的な考動の源泉となる。
本音の欲求を起点とする人生目的を定めている経営者は「自分自身の軸」を持っている。
経営者は常に自らに問う必要がある。
「これは本当に自分が望むことなのか?」
「本当に望んでいることは変化していないか?」
「望んでいないことを目的にしていないか?」
この自問自答のプロセスが「本当の人生目的」を明確にする。
「なぜ、成長したいのか?」
この答えは、常に「幸福になりたいから」のはずである。
2節:段階2ー人生目的と会社の目的の整合性
経営者の成長の第2段階は、「人生の目的」と「会社の目的」の整合性を確認することである。
これまで繰り返してきたように、経営者と会社は表裏一体である。
経営者の目的がそのまま会社の状況に反映される。
この両者が不一致であれば、会社が掲げる目的は「建前」となり、結果として「義務的な目的」となってしまう。
経営者は自らに問う必要がある。
「自分の人生のために経営しているのか?」
「会社のために自分を犠牲にしていないか?」
「会社を経営したいという思いに偽りはないか?」
「会社経営を義務と感じてないか?」
会社経営は、経営者の人生目的を実現するための「手段」である。
会社の最適化とは、経営者自身の人生目的が実現できる構造に整えることに他ならない。
もし会社がその目的を阻害する状態になっているなら、それは経営そのものが自分の人生と乖離していることを意味する。
「自分と経営の整合性」があるから、考動の方向性を迷わずに一貫できる。
人生の目的が会社の目的と一致するから、内発的な欲求を持って自社を経営できる。
3節:段階3ー目的を実現するための手段設計
経営者の成長の第3段階は、会社の目的を実現するための手段設計である。
これは、第2章で提示した「確率マネジメント」における計画フェーズに相当する。
すなわち、「目的を実現するために、何を・どのように実行するか」を明確にする段階である。
定量目標と定性目標の両面で設定するが、これは評価フェーズの基準にもなる。
(1)定量目標の設定と達成手段の具体化
利益目標、組織規模、営業拠点数、内部留保額など、成果を数値で設定する。
同時に、これらを達成するための手段を具体化する。
手段を明らかにすることで、計画と実際の差を論理的に分析できるようになる。
この段階での重要な視点は「自分にとっての最適値・最善の方法」であることである。
自分の本音とは違う目標や手段を設定すると、たちまち「義務的な目標と手段」になってしまう。
(2)定性目標の設定と実現手段の具体化
人事評価制度、人材育成の仕組み、顧客満足度など、質的な目標を定める。
定量目標と同様に、これらも実現するための手段を具体化する。
その際においても、「義務的な目標と手段」になっていないかの確認は欠かせない。
(3)時間軸の設計と中期経営計画
定量・定性の両目標に時間軸を加える。
「いつまでに、どのレベルまで達成・実現するか」を明確にする。
これにより、目標の達成・実現のための経営シナリオが計画として可視化できる。
長期目標として将来の理想像を描き、そこに至るための現実的プロセスとして中期経営計画を策定する。
中期経営計画は、長期計画における「通過点の目標設定」である。
(4)妥当性と整合性の確認
中期経営計画は、実行前に2つの視点で確認する。
第一に、妥当性の確認。
確率マネジメントの視点に立てば、「この計画の達成・実現の確率は高いか?」である。
現実離れした理想論になっていないかを点検する。
第二に、整合性の確認。
この段階で、再度確認する。
「この目標を達成・実現したとき、自分の人生目的も実現できるか?」
もし乖離があるなら、計画修正の必要がある。
この手段設計は、目的を実現可能な構造へと落とし込む段階である。
ここまでの手順で可視化される中期経営計画は、会社の計画であるとともに、経営者の人生計画という一面を持つ。
4節:段階4ー手段を実行するための自己投資
成長の第4段階は、中期経営計画の実行の質を高めるために、経営者自身の成長課題を解決するプロセスである。
これは第2章で示した「確率マネジメント」の実行フェーズにあたる。
どれほど優れた計画を立てても、実行する経営者自身に課題があれば、実現・達成の確率は高まらない。
経営者は自らの課題を抽出し、その解決のための自己投資を継続することが不可欠である。
中小企業において、最優先すべき投資先は経営者本人である。
- 思考:経営者としての考え方
- 心身:精神状態・健康状態
- スキル:経営者として必要な知識・技能・技術
これらの領域への投資のリターンは「経営者としての成長」、ひいては「会社の成長」である。
経営者が貢献度を高めて進化すれば、計画は順調に進む。
その結果、会社の成功を通じて、経営者の人生目的の実現確率が上昇する。
つまり、自己投資の目的は「幸福」なのである。
5節:まとめ
本章では、経営者が考動の質を高め、成長していくための4段階のプロセスを整理した。
- 段階1:本音の欲求に基づく人生目的を明確にする。これが成長の目的となる。
- 段階2:人生目的と会社の目的を整合させる。両者が一致するから内発的な欲求を持って経営できる。
- 段階3:目的を実現するための手段を計画する。定量・定性の両面で目標を設定し、中期経営計画として可視化する。
- 段階4:計画実行の質を高めるために経営者自身の成長課題を解決する自己投資を継続する。
この4段階を経ることで経営者は成長し、それに伴って会社も成長する。
ただし、自己中心的な人生目的を設定すると、この成長プロセスは歪む。
次章では、このリスクを排除するための「経営の原理原則」を整理する。
