前章で整理したように、オーナー型中小企業では所有と経営の一致という構造により、あらゆる経営判断が経営者個人に集中している。
したがって、中小企業を最適化するとは、経営者自身の考動を最適化するに他ならないと示した。
では、経営者の考動をどう最適化するのか。
その結論は「成功確率を高める考動」に整えることである。
未来は常に不確実であり、経営に絶対の正解は存在しない。
しかし、成功確率を高める考動の設計は可能である。
本章では、その実践的な視点のひとつとして「確率マネジメント」という概念を提示する。
1節:確率管理という経営の本質
経営者は、不確実な未来に対して、日々意思決定を繰り返している。
どれほど経験を積んでも、未来を完全に予測することはできない。
「必ず成功する絶対的な正解」なんてない。
したがって、経営者は常に「より良いと思う選択肢」を選び続けている。
みんな「よかれと思う選択」をしているのだ。
しかし、持続的に成果を得ている経営者と、そうでない経営者がいる。
その差は、成功確率を上げ、失敗確率を下げるための考動の質にある。
すなわち経営とは、日々の考動を通じて「確率を制御する営み」と言える。
期待する成果の確率を高め、望まない結果の確率を下げるための制御。
本稿では、この考え方を「確率マネジメント」と呼ぶ。
一般に「会社をマネジメントする」と言うが、「確率をマネジメントする」と言い換える方が現実的である。
この視点に立てば、経営能力とは「確率のマネジメント能力」を指すことになる。
2節:確率マネジメントの5段階プロセス
確率マネジメントを実践している経営者の考動を分析すると、次の5段階の循環プロセスに整理できる。
- 段階1:目標設定フェーズ
- 目的を明確に定義する。
- 進捗と成果を測定するために、定量的・定性的な目標を具体化する。
- 段階2:分析フェーズ
- 成功確率を上げる要因を特定する。
- 失敗確率を下げる要因を特定する。
- 確率を最適化するための課題を抽出する。
- 段階3:計画フェーズ
- 抽出した課題解決の優先順位を設定する。
- 課題解決のための計画を策定する。
- 中期経営計画および短期経営計画として文書化する。
- 段階4:実行フェーズ
- 短期経営計画を実行に移し、実務における考動の軸とする。
- 段階5:評価フェーズ
- 実行結果をモニタリングし、計画との誤差を検証する。
- 必要に応じて前段階に戻り、修正や再設計を行う。
これらのプロセスは直線的な手順ではなく、結果に応じて循環する可変型のサイクルである。
この循環の量と質を高めるほど、成功確率は上昇する。
3節:確率マネジメントの意義
確率マネジメントの意義を2つに整理する。
(1)試行錯誤の質的転換
確率マネジメントは、感覚や直感に頼る試行錯誤という偶然の領域から、根拠のある試行錯誤という意図的な領域へと移行させる。
この転換により、成功の再現性が高まり、失敗の再発防止が進む。
結果と原因の因果関係の解像度が上がるので、「運」の話が少なくなっていく。
(2)考動最適化の視点転換
この視点を持つ経営者は、確率を最適化するため、自己の考動を最適化することに積極的である。
自分自身の考動が最適化されるほどに、成功確率が上昇し、失敗確率が低下することを体感しているからである。
その視点は、「どうすれば確率が良くなるか」ではなく「どうすれば確率を良くする自分になれるか」である。
4節:まとめ
本章では、経営者の考動を最適化するための視点として「確率マネジメント」という概念を提示した。
- 経営に絶対の正解は存在しない。経営とは、期待する成果の確率を高め、望まない結果の確率を下げる営みである。
- 確率マネジメントは、目標設定、分析、計画、実行、評価という5段階の循環プロセスで構成される。
- このプロセスの量と質を高めるほど、成功確率は上昇する。
- 確率マネジメントの意義は2つ。感覚に頼る試行錯誤から根拠ある試行錯誤への質的転換と、「どうすれば確率を良くする自分になれるか」という自己最適化の視点転換である。
確率マネジメントを実践する主体は経営者自身である。
次章では、その経営者がどのように成長していくのか、その内面的・構造的なプロセスを整理する。
