第2章で示したように、マインドセットは、経営脳の5レイヤーの最下層に位置する。
また同時に、特に影響が大きい8つの要素として、倫理観を中心として、使命感・成長志向・本質志向・学習志向・素直志向・柔軟志向・可能志向を示した。
本章では、これらの要素について、その仕組み、必要条件、限界、そして機能しない場合の経営リスクを整理する。
1節:マインドセットの構造
「マインドセットを良くする」
これでは抽象的すぎて、検証できない。
マインドセットは、構成する個別要素に分けることで、自己認識と改善が容易になる。
その中心は、倫理観だ。
倫理観が中心となってマインドセットの方向性を決定付ける。
残り7要素は、倫理観が示す方向性に従ってそれぞれの機能を発揮する。
マインドセットは、これらの8つの相互作用によって全体が最適化される。
最適化されていないマインドセットは、これら8つの要素のいずれかに課題がある。
2節:核となる倫理観
マインドセットの中心は「倫理観」である。
倫理観は、社会や集団において好ましいとされる行動規範や道徳的な価値観のことである。
経営における倫理観は、経営の原理原則に他ならない。
関わる人々の持続的な幸福を目的とする経営が、倫理的な経営ということができる。
本稿では、これを「正しい経営」とし、論理の中心に置いている。
経営者のあらゆる考動の本質的な判断基準である。
経営者の倫理観が経営の原理原則に向くことで、他の7要素は正しい方向に揃う。
使命感・成長志向・本質志向・学習志向・素直志向・柔軟志向・可能志向、それぞれに「倫理的であるために」という目的がもたらされる。
万が一、経営の原理原則とは違った方向の倫理観であれば、それぞれは違った方向で集約され、整えば整うほど「正しくない経営」のためのマインドセットが形成されることになる。
つまり、3Gの人々の幸福を毀損する経営になってしまう。
第2章で示したように、マインドセットは、経営の原理原則との「整合性」と「強度」の両面で最適化される。
つまり、「より正しく、より強く」という進化によって、経営の原理原則の実現可能性が高まるという構造である。
倫理観は、このマインドセットの最適化において核となる根源的な要素である。
3節:他の7つの要素
核となる倫理観が定めた方向性に基づき、考動の質と量を向上させる「7つの要素」について、その機能と、希薄あるいは誤解した場合の経営リスクを整理する。
(1)使命感
使命感は「経営の原理原則を実現しようとする意思」である。
経営者は、組織のトップリーダーとして、この意思を明確に示す必要がある。
使命感が希薄であったり不明瞭であると、次のような経営課題として顕在化する。
- 個々の社員の能力を組織として結集できない
- 会社の方向性が曖昧なため、組織としての判断基準が機能せず、社員の自己中心的な考動が増える。
- 価値提供の意義が曖昧になり、差別化が進まず、価格競争に陥りやすい。
(2)成長志向
成長志向は「自らの貢献度を高め進化し続ける志向」である。
3Gの人々への貢献度を高めるために欠かせない。
成長志向が希薄であったり誤解すると、次のような経営課題として顕在化する。
- 成長の誤解は、貢献より利益や規模的な拡大を優先することになる。
- 能力の陳腐化により貢献度が低下し、時代遅れな会社になってしまう。
- 成長志向が企業文化として定着しないので、社員が育たない。
(3)本質志向
本質志向は「現象に惑わされず本質を見極める志向」である。
表面的な現象に惑わされることなく、正しく考動するために欠かせない。
本質志向が希薄であると、次のような経営課題として顕在化する。
- 課題の真因を解明できず、根本的解決に至らず、再発することが多い。
- 表面的な現象に反応する場当たり的な考動が多い。
- 客観的なデータや事実より感情や想像による考動が多く、周囲の理解を得にくい。
(4)学習志向
学習志向は「成長課題を解決し貢献力を高めようとする志向」である。
自らの成長課題の解決を、興味や流行より優先するために欠かせない。
学習志向が希薄であったり、誤解すると、次のような経営課題として顕在化する。
- 自己の成長課題を正しく認識できず、精神論で突破しようとすることが多い。
- 成功や失敗の原因や理由を学ぼうとせず、成功は再現できず、また、失敗は再発する。
- 学習志向が企業文化として定着せず、学びに怠惰な組織になってしまう。
(5)素直志向
素直志向は「歪めず受け入れ、偽らず表現しようとする志向」である。
自分の価値観に固執せず、先入観なく物事を受け入れ、また、裏表のない率直な考動は、良好な人間関係の維持に欠かせない。
素直志向が希薄であると、次のような経営課題として顕在化する。
- 周囲の批判や意見を聞く耳を持たず、軌道修正する機会を失う。
- 素直でない考動は、周囲の信頼や協力が得られず、孤立化していく。
- 経営課題を他責にすることが多く、成長機会を失う。
(6)柔軟志向
柔軟志向は「目的達成のために最適解を選択しようとする志向」である。
複数の選択肢の中から、もっとも合理的な最適解を考動に移すために欠かせない。
柔軟志向が希薄であると、次のような経営課題として顕在化する。
- 理に適った最適解より、プライドや過去の成功体験など、誤った軸で考動することが多い。
- 経営課題が生じていても、慣例や習慣を尊重し放置することがある。
- 軽微なリスクであっても受け入れず、チャンスを見逃すことがある。
(7)可能志向
可能志向は「可能性を前提に考動し、経験値を蓄積する志向」である。
考動量を増やし、経験による思考のバリエーションを拡げるために不可欠である。
可能志向が希薄であると、次のような経営課題として顕在化する。
- 目標設定が低くなりがちで、成長機会が少ない。
- 不可能表現が多く、周囲のモチベーションを削ぐことが多い。
- 成長意欲のある社員ほど離職しやすい。
4節:他のレイヤーとの相互作用
マインドセットは、倫理観を核とする他の7つの要素と共に、経営脳全体の方向性を制御すると同時に、他のレイヤーからも影響を受ける。
心身(フィジカル・メンタル)が良好であると、マインドセットもより強固に整えられていく。
また、スキルやセンスから得た3Gの人々への成果によって、経営の原理原則の確信はさらに強化されていく。
一方で、心身に課題があると、モチベーション低下によって、強度を下げることがある。
また、3Gの人々への成果が現れないとき、経営の原理原則への疑義が生じ、ついには、経営の原理原則を、建前や綺麗事に感じるようになる。
このような現象は、経営脳が理想論でなく、実務的なフレームワークとしての有効性を示している。
したがって、経営脳を整えるには、この相互作用を理解し、自責を起点としてレイヤーのいずれかに偏ることなく、同時進行で取り組むことが重要である。
5節:まとめ
本章では、マインドセットを構成する8要素の構造と機能を整理した。
- マインドセットは、倫理観と7つの要素(使命感・成長志向・本質志向・学習志向・素直志向・柔軟志向・可能志向)で構成される。
- 倫理観は、マインドセットの中心であり、経営の原理原則そのものである。倫理観が方向性を定め、他の7要素がその方向に揃うことで、マインドセット全体が最適化される。
- それぞれが考動の質と量を向上させる機能を持つ。各要素が希薄であったり誤解されると、具体的な経営課題として顕在化する。
- マインドセットは、他のレイヤー(心身・スキル・センス)と相互作用する。心身が良好であればマインドセットも強固になり、3Gへの成果によって整合性が高まる。一方、心身の課題や成果の不在は、マインドセットの強度や整合性を低下させる。
- 経営脳を整えるには、この相互作用を理解し、いずれかのレイヤーに偏ることなく、同時進行で取り組むことが重要である。
次章では、メンタルの構造を整理する。
