第2章までに、経営の原理原則とその核心概念である幸福の構造を明らかにした。
次に、経営者の考動が影響を及ぼす「関わる人々」を3つのグループに分類し、概念の解像度を高める。
本章では、「関わる人々」を具体的に定義し、その幸福実現を支援する思考枠組みとして3Gマネジメントを提示する。
1節:3Gの定義
「関わる人々」とは、経営者の考動によって影響を受けるすべての人々を指す。
これを次の3つのグループに分類する。
(1)基本構造
- Group1(社外):社会、顧客、取引先
- Group2(社内):従業員と、その家族を含む大切な人々
- Group3(自分):経営者自身と、その家族を含む大切な人々
(2)見落とされがちな人々
3つのグループの人々の中には、見落とされがちな人々がいる。
経営者は、以下の人々を常に意識し続ける必要がある。
時間軸の盲点
将来世代や、長期的な影響を受ける人々。
現在の考動が、近い将来、遠い将来にどのような影響を及ぼすか。
意外と多いのが、時間の経過と共に、それぞれ年齢を重ねるという事実だ。
仮に、十年後もメンバーが同じなら組織の平均年齢は十歳上がる。
平均年齢30歳の組織なら、十年後は40歳の組織になる。
この事実を深広思考で捉えると、また、違う考動になるかもしれない。
また、環境負荷、技術的負債など、時間をかけて顕在化する問題も見落とされやすい。
空間的盲点
サプライチェーンの末端や、間接的な下請け先など。
過剰な負担や犠牲が、直接的な取引相手のみならず、その先の人々で発生することがある。
立場的盲点
組織内外には、声を上げにくい立場の人々が存在する。
その人々の不満や負担は表面化しにくく、犠牲が見過ごされることもある。
これら3つのグループ全体を正しく捉え続け、その持続的な幸福実現を支援する経営を「3Gマネジメント」と呼ぶ。
2節:3Gへの支援
3Gマネジメントは、経営者が積極的に幸福を与える経営ではない。
幸福は、あくまで各人が自力で実現するものである。
経営者の役割は、その幸福の追求を支援することと、邪魔をしないことにある。
(1)二層構造の認識
この支援には、幸福の二層構造に対応する下記の2つの段階があり、これを通じて経営者は3G全体の幸福確率を高める。
第1:最低幸福の支援
経営者自身の考動が3Gの幸福実現を阻害せず、不安・恐れ・焦燥などの負の要素を軽減し、安心できる環境を整える。
第2:充足幸福の支援
3Gの多様な充足条件を理解し、それぞれのニーズに応じた機会を提供する。
(2)各個人の幸福感の認識
3Gの幸福は、それぞれの価値観により多様である。
各人の幸福を正しく理解し、それぞれに応じた対応の視点が重要である。
経営者自身の価値観による幸福感の押し付けにならないように注意が必要である。
3節:3Gバランスの維持と回復
3Gの幸福実現のバランスは常に変化する。
経営環境は時々刻々と変化し、どれか一方が優先される局面は避けられない。
あるグループを最優先するあまり、他のグループに過剰な負担が生じたり、ときに犠牲にすることがある。
例えば、「経営者の自己中心的な人生目的」は、Group3偏重の典型例である。
最も危険なのは、こうした偏りを「仕方がない」「避けられない」と当然視し、恒常化させることである。
重要なのは、偏りを一時的偏差として認識し、早期リカバリーへと移行する考動習慣を持つことである。
経営者は、常に3G全体の幸福状態を把握し、偏りが生じた時点で修正考動を取る必要がある。
経営の巧拙は、偏りを検知し、回復の速度を高めることによって決まる。
4節:組織全体の誤認リスク
中小企業の現場において、経営者が3Gの幸福状態の偏りを検知できないことがある。
その最も多い原因は、組織全体が「偏っていない」と信じて疑わない状態である。
いわゆる、エコーチェンバーバイアスである。
これは、内部の指標や短期成果だけを基準に判断し、外部への影響や長期的リスクを軽視することで起こる。
たとえば、取引先への過度な価格圧力によって自社の利益が向上し、従業員の待遇も改善しているとすれば、内部的には良い経営に見えるかもしれない。
しかしその裏で、取引先に負の感情が蓄積していれば、いずれ何らかの形でリバウンドが生じる。
同様の事例は、意外と散見される。
「従業員の待遇改善のために取引先に圧力をかける」
「売上拡大のために従業員に過重労働を強いる」
「自社の利益確保のために顧客に不当な負担を転嫁する」
偏りの結果、他のグループへの負の影響が見えなくなつている。
いずれも短期的には成功に見えるが、負の感情蓄積により長期的には破綻する。
経営者は、常に3Gの持続的な幸福は他者の不幸の上に成り立たないという本質を自問し続ける必要がある。
この誤認を防ぐには、3G各層から直接フィードバックを得る仕組みや、外部の視点を定期的に取り入れることが有効である。
偏りへの敏感さこそが、3Gマネジメントの要である。
5節:まとめ
本章では、経営の原理原則を実践する具体的な思考枠組みとして「3Gマネジメント」を提示した。
- 「関わる人々」とは、経営者の考動によって影響を受けるすべての人々を指し、Group1(社外)、Group2(社内)、Group3(自分)の3つに分類される。
- 3つのグループには、時間軸・空間的・立場的な盲点により見落とされがちな人々がいる。無意識の過失を防がなければならない。
- 3Gマネジメントは、経営者が幸福を与える経営ではなく、3Gが自力で実現する幸福を支援する経営である。
- 支援には二層構造に対応する2つの段階がある。最低幸福への支援と充足幸福への支援である。
- 3Gの幸福は多様であり、経営者自身の価値観による幸福感の押し付けにならないよう注意が必要である。
- 3Gのバランスは常に変化し、一時的な偏りは避けられない。危険なのは、その偏りを当然視し、恒常化させることである。
- 経営の巧拙は、偏りを検知し、早期リカバリーを行う速度で決まる。
- 組織全体が「偏っていない」と誤認するリスクがある。3G各層からのフィードバックと外部の視点が重要である。
では、この3Gへの支援を実現するために、経営者自身はどのように成長すべきか。
次の第4部では、経営者の考動を支える内面構造として「経営脳」の全体像を明らかにする。
