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この記事は、更新時の情報と筆者の考えに基づくものです。
2024年第12週の土曜日です。春をすぐそこに感じられる季節になってきましたが、「経営脳の自主トレ」は順調に進んでいますか?
さて、今週のテーマは「中小企業の人手不足」です。これは、もともと私の中でいつも優先度の高いテーマなのですが、昨今の「大企業の満額回答」のニュースに接して「いよいよか・・・」と、さらに緊急度と重要度がランクアップしています。
そこで今日は「今後、人手不足をどう考えるか?」について整理しておきます。週末の「経営脳の自主トレ」の参考にしてください。
このブログでは「10人~100人規模の中小企業経営者」の方々に向けて「経営脳の自主トレサポート」を目的に「もっといい会社」にするためのヒントを発信しています。初めてアクセスしていただいた方は、こちら(=「このブログについて」)をまずご覧ください。
中小企業はますます厳しくなる?!
私は、今後ますます「人手不足」で厳しくなる中小企業が増えると思っています。最悪のケースは「人手不足倒産」も珍しくなくなる程度に、です。
「堀井さん、ちょっと考えすぎでは?」という意見もあります。
しかし「たぶん、地震はこないだろう」という意見と同じで、そんな危機が来なければそれに越したことがありません。万が一の時に「想定外だった」と後悔しても、もう、その時では遅いのです。
また、そんな「万が一」に備えることで、もっといい会社に成長するなら「万が一」が無くても決してそれはムダな事ではありません。
「人手不足は避けられない」と「他責(=無策)」で考えるのか?「人手不足でもビクともしない強い会社にする」と「自責」で考えるのか?その差はいうまでもないでしょう。
・・・とういうことで以下、「中小企業はますます厳しくなる」という前提で話を続けます。
ロジックはシンプルです。今後は、効果的な「人事戦略」を持っておかないと「ヤバイ」確率が高くなります。
- 上場企業をはじめとする賃金アップが進み、賃金相場が上昇する
⇩ - 優秀な人材は、より待遇の良い企業に向かう
⇩ - 中小企業に向かう優秀な人材は減少していく
⇩ - 全体的に(優秀な)人材が減少傾向
⇩ - 中小企業に来る人材は「物足りない人」がほとんど
⇩ - なのに、優秀な人材は出て行ってしまう・・・
「厳しくなる」という意味には、「募集しても優秀な人材を確保できない」だけではなく「優秀な人材が流出する」ということも含んでいます。
少々上品でない言葉を使うと「人の獲り合いが激しくなる」ということです。
このロジックに「当てはまらない中小企業」になるためには?を考えましょう。
人材の「獲保」は競争
あえて「獲保」という言葉を使っていますが、「獲ること」も「保つこと」も厳しくなるだろう、という前提です。
業界によっては、すでに「獲り合い」がますます厳しくなっていますが、この範囲が全業種に及んできても不思議ではありません。「他人事」ではありません。「わが身に降りかかる危機」です。
会社から見れば、「人材」も「顧客」も同じところに位置しています。
「顧客」も「人材」も、「どこから買うか?」「どこに(労働力を)売るか?」と市場の中でで選択します。つまり「会社を選ぶ」のです。販売において、ライバルと競争するように「獲保」についても、ライバルとの競争です。
太郎君が「A社にしよかな?」「B社にしよかな?」と考えた時に「選ばれる相手(会社)」になる必要があります。
「人が余っている環境」であれば「なんでもします!ボク、ワタシを採用してください!」と人材側からアピールしてきますが、その逆転現象です。「人が足りない環境」において、もし「なんでもします!」とアピールしてくる人材がいるとすれば、その人は「なんにもできない」可能性が大ですね。
ただ、人材は「不足」するのであって「消滅」するのではありません。必要とする人材は必ず存在してます。その人材を獲得、維持するための競争に勝つか負けるかです。その競争力を強化するために必要なのは「自責(で考えるかどうか?)」です。「他責(=環境のせい)」にしていると、人材は不足していると感じます。しかし「自責」で考え、競争力を強化すれば不足を感じることはなくなるのです。
一時的な対策ではなく、体質改善
「人材の獲保」に課題を抱えている場合、その対策には「人材獲得の対策」と「人材留保の対策」の2つの側面がありますが、いずれにしても急場しのぎの「一時的な対策」ではなく、「必要な人材を必要な時に採用できる会社」「大切な人材が辞めない会社」として「体質改善」が必要です。
一時的な「採用広告」や、「臨時ボーナス」などの話ではありません。
「必要な人材を必要な時に採用できる会社とは?」
「誰も離職なんて考えない会社とは?」
それは「どんな会社なのか?」というゴールイメージの解像度を上げる必要があります。
このゴールイメージが曖昧であると、残念ながら長期的に勝ち続けるための「体質」には改善できません。
結論は2つ「増益」と「社員満足」
では「人材の獲保に強い会社」とは、どんな会社なのでしょうか?
結論は「十分な利益」と「高い社員満足度」のふたつです。
このふたつは「両輪」であり、お互いに密接にリンクしています。
- 「十分な利益によって社員の満足度を上げる余裕がある」
- 「社員満足度が高く、パフォーマンスが高いので十分な利益が出る」
どちらが先か?ではなく、同時並行して進めていくテーマです。
充分な利益のために
利益の余裕がなければ、どんなに素晴らしいプランであっても実行が困難になり、最悪の場合は「絵に描いた餅」になってしまいます。
充分な利益を確保するためにどうするか?「外の視点」と「内の視点」に分けて整理します。
外の視点:限界利益を増やす
中小企業のための進化型PL「MA損益計算書」のフォーマットで確認しましょう。
限界利益は「売上」から「仕入れ・外注」など、いずれも「外」の人たちとの取り引きで、その金額が決定します。
売上の拡大や、仕入れ・外注先との取り引きに解決すべき課題はないか?を改めて総点検すると、意外と「値決めの課題」や「ロスの課題」などが出てくるものです。
充分な利益を獲得するために「外の視点」で課題解決を進めましょう。
(参考記事)
進化型PL「MA損益計算書」
内の視点:生産性を改善する
「内の視点」として、ムダなコスト削減は言うまでもありませんが、その上で取り組むのが「生産性の改善」です。
「生産性の改善」というと「効率的に行うことによってコストを下げる」というイメージが強いのですが、中小企業においては「生産性を改善して時間を捻出する」という視点が重要です。
例えば、生産性の改善で「8時間/日/全体」が捻出できれば、新たに一人採用したのと同じ効果です。
ムリムダの削減や、自動化、仕組み化、機械化などで「捻出できた時間」を、他の付加価値を稼ぐために振り分けるという積極的な意味です。
私の経験上、中小企業では「現場のメンバーによって自然発生した業務フロー」が多く、また、それが属人化していてタブー領域になっていることが散見されます。「最も合理的な業務フローなのか?」という視点でトレースすると、多くの改善点がピックアップできます。最近話題の「(IT化を含む)DX化」は、この本質的な改善の後のテーマです。
利益を増やすために「内の視点」で課題解決を進めましょう。
(関連記事)中小企業の賃金アップ|人的コスト15%upの影響を試算する
社員満足度を高めるために
人材の獲保に強い体質に改善するための、もう一つは「社員満足度」です。
極端な言い方になりますが、どれだけ増益しても、その裏で社員たちが疲弊していたら本末転倒です。
高い社員満足度で、高収益を持続する会社が、目指すところの「人材の獲保に強い会社」です。
そのための重要ポイントを整理します。
社員ニーズを正しく知る
「社員満足度」を高めるには、社員の満足や反対に不満を正しく認識することが大前提です。販売において「マーケットリサーチ」をするのと同じです。顧客を知らないとニーズに応えられないのと同じく、社員を知らないとニーズに応えることができません。
社員たちは、何に満足し、何に不満を持つのか?丁寧なコミュニケーションを重ねて相互理解を深めることが、とても大切です。
潜在的なニーズを顕在化させる
中小企業の人材を観察していると「あきらめている人」が少なくありません。「どうせムリでしょ・・・」というニュアンスです。この考え方を持っている人材をモチベートする難易度は高く、結局、経営側も「あきらめる人」になってしまい双方にとって何もいいことはありません。
「ホントは***したいのでしょ?できるよ!」と、封印してしまっている本当のニーズを顕在化させることで、数名を目覚めさせることは可能です。
さらに、それは「誰かがやってくれる」のではなく「一緒にそのために頑張ろうよ」という接し方をします。
例えば「必ず有給は全部消化しよう!」「そんなのムリでしょ・・・」「いや、生産性を改善すれば可能だよ!一緒に頑張ろうよ!」という具合です。
社員満足度を高める一般的な方法
社員満足度を高めるために、様々な取り組み事例が紹介されるようになってきました。その中でも、よく見かけるものをリストアップします。あなたの会社でも取り組めるものがないか?また、これを参考に、新たなアイデアはないか?を確認してみてください。
私が、現場でよくアドバイスするのが「優秀な人材の満足度の視点を忘れないで」です。不平不満を解消するための施策というより「優秀な人材の満足度をより高めるためにどうすればいいか?」という視点を忘れないようにしましょう。
- 勤務体系
- フレックスタイム
- 時間差出勤
- リモートワーク
- 週休3日
- 福利厚生
- ジムやフィットネスの補助
- 健康的な食事のためのランチ補助
- ウォーキングや禁煙などへの報奨金
- 人間ドック
- 待遇等
- 給与賞与制度の見える化
- 人事評価制度
- 業績連動型賞与
- 良好なコミュニケーション
- 経営陣や上司との1on1面談
- 報償制度
- 安全・衛生
- オフィス環境の整備
- その他
- ルールブック制定=不文律の排除
- カルチャーブックの制定=価値観の言語化
- 経営計画の公表
これら以外にも、いろんなアイデアがあると思います。私の過去の経験で、もっとも想定外だったことには「駅に近いオフィスに移転」というだけで応募数が激増したという事例もあります。
(参考記事)経営の目的は関わる人たちの幸せ:社員たちの幸せとは?
目標設定する指標
「人材の獲保に強い体質への改善」が進んでいるか?のモニタリングが重要です。
私は「定量的目標」と「定性的目標」を掲げ、その進捗状況をチーム全体で共有し「ともに進化している」という実感を共有する仕組みが重要と考えています。
定量的目標:一人当たりの限界利益
数字で見える「定量的目標」として「一人当たりの限界利益」を月次決算で毎月確認し、全員(または主要メンバー)で共有しましょう。
これには、マネジメント会計や給与賞与の制度化が必要ですが、一人当たりの限界利益をアップすることが、メンバーたちの給与や賞与に直結することを毎月意識してもらうことは、モチベーションを高めるためにもとても効果的です。
ちなみに、人的コスト比率(≒労働分配率)の適正値は30%~40%です。
(参考記事)中小企業の人的コスト比率|人件費は限界利益の40%が上限?!
定性的目標:社員満足度
社員満足度を高めるために「何をするか?」「どうするか?」「いつやるか?」など、具体的な制度や待遇等の目標を言語化し、その実現度合いを社員たちに評価してもらう仕組みです。満足かどうかは当然ですが「社員が決めること」です。当事者である社員たちに「満足度が高まっているか?」について、四半期または半期ごとに評価してもらいましょう。
「目標の実現」が必要なのは当然ですが、そこへ至るプロセスそのものによって「会社はホンキ」が伝わり、社員満足度は高まっていくものです。
(参考記事)中小企業の経営計画|目標は「定量」「定性」の両面で設定する
経営脳をフル稼働して「人手不足」に備える
私は、このブログで「経営脳の5つのレイヤー」を紹介していますが、この「人出不足への対応」は、5つのレイヤーのすべてが必要となる難易度の高いテーマです。
「人手不足に備える」というと「すでに困ってる」という経営者も少なくありませんが、私の心配は「もっと厳しくなる」です。
つまり、今、苦しいなりに何とか凌いでいる中小企業も、今後はそれを超える厳しさになるのでは?という考えです。
その「来る危機」に対して、「フィジカル」は置いておくとしても「マインドセット」「スキル」「メンタル」そして「センス」という4つの経営脳をさらにトレーニングし、それをフル稼働する必要があると思っています。
(参考記事)経営脳は5層構造、フレームワークで最適化する!
いくつかをピックアップします。
- Layer1:マインドセット
- Layer3:メンタル
- Layer4:スキル
- 先見力:この先の労働市場において何が起きるか?を中長期視点で見通すチカラ
- チームビルディング力:まさに「ドンピシャ」のスキル
- プロジェクトマネジメント力:人材の獲保に強い体質への取り組みはプロジェクトそのものです。
これら以外にも、競合優位を築くための「Layer5:センス」も、競争力強化のために欠かせません。
5つのレイヤーを俯瞰して、改めて「経営脳の強化ポイント」をセルフチェックし、自主トレプログラムの参考にしてください。
まとめ
さて、どうですか?今週は、中小企業はますます厳しくなるという前提で「中小企業の人手不足」にフォーカスして整理しました。
- 人材の「獲保」は競争であること
- 一時的な対策ではなく、体質改善が必要であること
- 「増益」と「社員満足」の両輪で体質強化に取り組むこと
- 目標設定する指標は「定量」と「定性」のふたつであること
- 人材の獲保に強い会社にするため、経営脳をフル稼働すること
繰り返しますが、人材は「不足」するのであって「消滅」するのではありません。必要とする人材は必ず存在してます。その人材を獲得、維持するための競争に勝つか負けるかです。その競争力を強化する本質は「自責で考えるかどうか?」です。「他責」にしていると、人材は不足しますが、「自責」で考え、競争力を強化すれば不足しないのです。
関連記事も含め参考にしてみてください。
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以上、お役に立ちますように!